中世ウクライナ人によるキビ摂取の証拠を新しい分析法により解明
この発見は、中世ウクライナの食生活に関する前例のない知見を提供するとともに、考古学者が古代の食文化を再構築するために利用可能な方法のレパートリーを広げるものです。
新たな研究方法の導入により、初めて、人間の歯石から直接、キビの消費を示す微量な痕跡が確認された。この発見は、中世ウクライナの食生活に関する前例のない知見を提供するとともに、考古学者が古代の食文化を再構築するために利用可能な方法のレパートリーを広げるものである。
国立文化財機構 奈良文化財研究所、ヨーク大学、ヴィリニュス大学、フロンティア・ラボ株式会社、ウクライナ国立科学アカデミー考古学研究所の研究者らは、ウクライナ中部のオストリフ墓地(西暦10~12世紀)から出土した人骨より採取した歯石に対し、先進的な分析技術である熱脱着ガスクロマトグラフィー・質量分析法(TD-GC/MS)を適用した。
研究チームは、分析対象31個体中8個体から、キビ(Panicum miliaceum)に特に豊富に含まれる分子バイオマーカーであるミリアシンを検出することに成功した。これは世界で初めて人類の歯石から採取された、キビの摂取を示す直接的な生体分子の証拠である。

同位体が捉えられないものを検出する
従来行われてきた、骨や歯のコラーゲンを対象とした安定同位体分析では、キビが個人の食事性タンパク質の約20%以上を占める場合にのみ、その摂取を特定できる。その結果、低レベルまたは散発的なキビ摂取(特に季節的、機会的、あるいは社会的に変動する食事で一般的なもの)はしばしば見過ごされる。
本研究では、ミリアシンが歯石から検出された複数の個体において、低いδ¹³C値が確認されているが、従来型の同位体分析では、これらの値をとる個体はキビなどのC4植物を摂取していなかったものと判断されてしまう。
「私たちの研究結果は、ごくわずかなキビの痕跡でさえ歯石に化学的な指紋を残すことを示しています」と論文の筆頭著者である庄田慎矢博士は述べている。「これは過去に存在した微細な食習慣を探知する全く新たな方法を切り開くものです。」従来行われてきた、骨や歯のコラーゲンを対象とした安定同位体分析では、キビが個人の食事性タンパク質の約20%以上を占める場合にのみ、その摂取を特定できる。その結果、低レベルまたは散発的なキビ摂取(特に季節的、機会的、あるいは社会的に変動する食事で一般的なもの)はしばしば見過ごされる。
本研究では、ミリアシンが歯石から検出された複数の個体において、低いδ¹³C値が確認されているが、従来型の同位体分析では、これらの値をとる個体はキビなどのC4植物を摂取していなかったものと判断されてしまう。
「私たちの研究結果は、ごくわずかなキビの痕跡でさえ歯石に化学的な指紋を残すことを示しています」と論文の筆頭著者である庄田慎矢博士は述べている。「これは過去に存在した微細な食習慣を探知する全く新たな方法を切り開くものです。」
古代の食生活を再構築する新たな手法
マイクログラム規模の試料(従来分析に用いていた量よりもはるかに少量)に対するTD-GC/MS利用の成功は、方法論上の大きな進歩を示すものである。この手法は効率的で、試料への損傷が最小限に抑えられ、考古学的な文脈において広く適用可能である。
「この手法により、考古学的記録にほとんど現れない、これまで十分に活用されてこなかった植物性食品の利用について検討できるようになります」と、論文の最終著者であるゲードレ・モトゥザイテ=マトゥゼビチウテ教授は述べている。「これにより、人々の日常的な食生活や、地域環境や文化的変化への適応方法について、より明確な理解が得られるのです。」
中世の共同体に関する考察
中世オストリフ墓地に埋葬された人々は、キーウ・ルーシの文化圏に属し、スラヴ系とバルト系の両コミュニティの影響を受けていたため、多様な食習慣の歴史を有していた。複数の個体において、幼少期におけるキビの摂取がほとんどなかったことを示す同位体組成が確認されたにもかかわらず、その歯石からはミリアシンが検出された。このことは、移住や食料供給の変化と関連して、生涯の後半にキビの摂取が開始された可能性を示唆している。
「歯石は人間の歯によく見られる生物学的物質です。歯石マトリックス内で種特異的な植物を、他の生体分子考古学的手法と組み合わせて発見することは、過去の人々の栄養状態を理解する上で新たな可能性を開きます」と、共同著者である人類学者のアレクサンドラ・コザック博士は述べる。
広範な影響
本研究は、古代における植物利用、特に歴史的に重要でありながら追跡が困難なキビなどの作物の特定において、歯石分析がもつ変革的な潜在性を浮き彫りにしている。この新たな方法論は、時代、地域、社会的アイデンティティを超えた食の多様性について、我々の理解を新たにするかもしれない。

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出版詳細
"Thermal desorption GC/MS on human dental calculus detected minute millet consumption in medieval Ukraine(和訳:中世ウクライナにおけるヒト歯石の熱脱着GC/MS分析により検出された微量のキビ摂取)"と題する本研究の全文は、Scientific Reports誌に掲載された。
https://doi.org/10.1038/s41598-025-31019-9
ファンディング
本研究は、ヴィリニュス大学のMotuzaitė Matuzevičiūtė(モトゥザイテ=マトゥゼビチウテ)教授に授与された欧州研究会議コンソリデーター・グラント「MILWAYS - 過去と未来のキビ食文化」(101087964)、庄田慎矢博士に授与された三菱財団人文科学研究助成金(SOUP、202420018)、そしてアレクサンドラ・コザック博士の貢献に代表されるドイツ科学財団(DFG)プロジェクトP508078428「キーウ・ルーシ国境におけるバルト海移民」の支援を受けて実施されました。
報道資料
問い合わせ先
企画調整部 国際遺跡研究室 庄田慎矢
TEL:0742ー30ー6839
E-mail: shinya.shoda★york.ac.uk ★→@