2025年 世界のM&Aが大幅に回復 - 取引総額4.8兆ドルに達し、過去2番目の高水準を記録

2025-12-25 15:45
ベイン・アンド・カンパニー

●買収頻度の低い企業が大胆な投資判断に踏み切ったことを背景に、50億ドル超のメガディールがM&A回復を牽引
●AI関連ディールに牽引され、テクノロジー分野のM&Aが年間のディール総額を36%押し上げ
●収益成長を狙ったディールが最も活況になった年に、新市場拡大を目的としたスコープ型ディールへ戦略転換

ベイン・アンド・カンパニーの最新のレポートによると、世界のM&A市場は力強い回復基調にあり、2025年の年間取引総額は4.8兆ドルと、過去2番目の高水準となる見込みです。これは前年比36%増に相当します。

今年のM&A市場の回復を牽引したのは50億ドル以上のメガディールです。M&Aへの参加頻度が比較的低い買収頻度の低い企業が、これまでの静観から転じ、大胆な投資に踏み切ったことが背景にあります。一方で、2025年のM&A件数は前年比5%増にとどまる見込みで、取引総額が大幅に拡大するなかでも、件数の伸びは限定的です。

50億ドル超の取引は、戦略的ディール価値成長の75%を占め、その約60%は買収頻度の低い企業によるものでした。また、全体の約5分の2は、買収額が買収企業の時価総額の50%超に相当する規模を持つ変革型ディールに該当します。ベインは、こうした大規模かつ変革的なM&Aは、買収企業にとって高リスクと高リターンの両面を併せ持つ「大きな賭け」であり、価値を創出・確保するためには、戦略および組織の統合と整合性に通常以上の注力が不可欠だと指摘しています。
分野別では、AI関連取引に牽引されたテクノロジーM&Aが、今年のM&A活況の先陣を切りました。一方で、本レポートによれば、今回のM&A市場の力強い回復は特定分野に限定されたものではなく、業界・地域・投資主体を問わず広範に及んでおり、すべての地域および業界で取引金額が二桁成長を記録しています。

テクノロジーと先端製造業が牽引する、ディールメイキングの広範な回復

2025年、テクノロジー分野のM&Aが本格的に復調し、年初来の取引額は前年同期比で76%超増の4,780億ドルに達しています。特に、5億ドル超の戦略的テクノロジー案件の取引額の約半分が、AIネイティブ企業、もしくはAIによる価値創出が期待されるディールでした。先端製造業もディールメイキングを牽引し、年初来の取引金額は38%増の7,170億ドルに拡大しています。

●地域別の動向:世界規模で回復、日本市場は世界第3位へ躍進
地域別に見ても、M&A市場の回復は世界全域に波及しています。

  • 米国:2025年のM&A成長は米国企業を対象とした案件が牽引。戦略的ディール総額の約半分を占めた。
  • 中国:案件数で首位、世界第2位の市場。国内案件が取引額の80%以上を占めるなど、中国国内市場の力強さが背景。
  • 日本:世界第3位の市場へと躍進、取引額が前年比で倍増し、案件数も2桁増を記録。
  • 欧州・中東・アフリカ(EMEA):メガディールへの集中により取引額は大きく伸びたものの、地域全体の案件数は7%減少。

2025年にディール総額が全体で36%増加すると見込まれるなか、あらゆる層のディールメーカーによる取引活動が大幅に活発化しました。取引金額は、戦略的取引で38%増、金融投資家で31%増、ベンチャーキャピタルで28%増、と幅広いプレーヤーで伸びを示しました。

規制緩和、資本コストの低下、売り手・買い手の間のバリュエーションギャップの縮小が回復を後押し

ベインの分析によれば、企業が買収を通じた成長と、収益構造(プロフィット・プール)の変化への対応を戦略的に選択したことが、今年の新たなM&A活況を生み出しています。
ポスト・パンデミック期にM&Aの逆風となっていた多くの要因は沈静化し、規制環境や資本コストも緩和してきているとベインは指摘しています。また、売り手と買い手の間のバリュエーションギャップも縮小しており、足元の評価倍率はEV/EBITDAベースで11.6倍まで回復しました。ただし、本レポートによれば、多くの業界において依然として2021年のピーク水準は下回っています。

さらにベインは、現在の戦略的環境において、「様子見」を続けることは合理的ではないと認識する経営幹部が増えているとみています。特にAIによる破壊的な影響が、多くの業界で進むなか、「今、行動する」判断の緊急性が高まっているためです。
ベインのM&A担当幹部300名超を対象に実施した調査では、多くの企業の重要戦略としてディールメイキングが今後も維持・拡大されることが分かっており、回答者の85%以上がテクノロジーや戦略の転換を背景に、自社のM&Aパイプラインを刷新したと回答しており、M&Aが再び成長戦略の中心に位置づけられていることが示されています。

関税や貿易摩擦は、M&A回復の勢いを止めず

2025年、関税を巡る不確実性や貿易環境の混乱が、M&A活動に与えた影響は限定的でした。4月には一時的なディール活動の減速が見られたものの、その影響は短期間で収束しています。
2025年のクロスボーダー取引の比率に大きな変化はなく、ベインが実施した調査では、貿易制限が全体的なディール計画に影響すると答えたM&A担当幹部は半数未満でした。また、70%は貿易政策が事業売却の計画には影響しないと回答しています。
一方で、ベインは、ポスト・グローバリゼーションの潮流が中長期的により大きな深刻な影響を及ぼすと指摘しています。実際、ベインの調査では、非米国企業による米国資産への投資意欲の低下、関税を背景に米国企業が国内案件を志向する傾向の強まりなど、初期的な兆候が確認されています。
グローバルな貿易構造が地域別に分断されていくなかで、M&Aは企業にとって選択肢の柔軟性を高め、市場へのアクセスを確保する手段として重要な役割を果たすと、ベインは分析しています。

多角化する経営課題資金配分競争:ディールメーカーは資本配分の制約に直面

本レポートは、ポスト・グローバリゼーションや保護主義的政策の強まりが、M&Aに対する資本配分にも影響を及ぼす可能性が高いと指摘しています。
企業はサプライチェーンの強化に加え、AI、オートメーション、ITインフラへの投資といった多額の支出を求められており、M&A担当幹部は、これまで以上に厳しい資金配分の精査に直面しています。そのため、個々のディールに求められる投資対効果(ROI)のハードルは一段と高まる可能性があります。

2025年のディールメイキングが強化されたにもかかわらず、M&Aへの資本配分は今年、過去10年で最低水準にとどまりました。S&Pワールド指数構成企業約700社の現金支出に占めるM&A向け資本配分はわずか7%で、過去9年間の9~17%のレンジを大きく下回っています。
ベインは、企業によるM&A向け投資の減少について、テクノロジースタック、ロボットやAI、工場、エネルギーファームなど幅広い分野での他の投資優先事項がM&Aを圧迫していることが背景にあると指摘しています。

M&Aの現場全体に広がるAIの活用

AIの急速な進展が加速した2025年、人工知能はM&Aのあらゆる場面で活用されるようになりました。ベインの調査によれば、戦略的買収企業の75%が、買収対象企業の事業に対するAIの影響を考慮し、少なくとも20%がディールから撤退しています。
また、M&A担当幹部によるAI活用率は前年から倍増し、実務担当者の45%が活用するようになりました。現在もディールのソーシングやスクリーニングがAIの主な用途である一方で、統合(PMI)の計画立案や実行などのプロセスにおいても、AIを活用するディールメーカーが増えつつあります。

M&Aはスケール型からスコープ型へ大きく転換、 過去最高の比率に

ベインの報告によれば、企業のM&A戦略は、既存事業や市場の拡大を目的とする「スケール型ディール」から、M&Aを通じて新市場や新たな顧客セグメントへの進出を図る「スコープ型ディール」へ大きくシフトしています。
2025年において取引金額が10億ドルを超えるディールの60%がスコープ型であり、これは過去最高の水準です。企業がトップライン成長と新たなケイパビリティ(組織能力)の獲得に注力していることが背景にあります。
また、従来はスケール型ディールを主軸としてきた金融サービスや先端製造業においても、自社の事業領域の拡張(スコープ拡大)に対する意欲の高まりが見られます。

2026年に向けた展望

ベイン・アンド・カンパニーは、2026年1月に「2026年版グローバルM&Aレポート」を公開する予定です。同レポートでは、今後1年のディールメイキングの見通しに関する包括的な分析に加え、主要産業の詳細な分析、および「M&Aプラクティショナーズ2026年展望調査」の全結果を掲載します。同調査は、米国、オーストラリア、ブラジル、カナダ、フランス、ドイツ、スペイン、インド、イタリア、日本、シンガポール、英国の12カ国における300名超のM&A実務家を対象に実施しており、世界各国のディールメーカーの視点から、2026年のM&A環境を多角的に分析しています。

調査対象国

米国、オーストラリア、ブラジル、カナダ、フランス、ドイツ、スペイン、インド、イタリア、日本、シンガポール、英国

ベイン・アンド・カンパニーについて

ベイン・アンド・カンパニーは、未来を切り開き、変革を起こそうとしている世界のビジネス・リーダーを支援しているコンサルティングファームです。1973年の創設以来、クライアントの成功をベインの成功指標とし、世界40か国65拠点のネットワークを展開しています。クライアントが厳しい競争環境の中でも成長し続け、クライアントと共通の目標に向かって「結果」を出せるように支援しています。ベインのクライアントの株価は市場平均に対し約4倍のパフォーマンスを達成しており、私たちは持続可能で優れた結果をより早く提供するために、様々な業界や経営テーマにおける知識を統合し、外部の厳選されたデジタル企業等とも提携しながらクライアントごとにカスタマイズしたコンサルティング活動を行っています。また、ベインは環境・社会・倫理における企業のパフォーマンス評価を行っているEcoVadisより、全企業の中でも上位1%に位置づけられるプラチナ評価を獲得しており、社会課題に取り組む非営利組織に対し今後10年間で10億ドル以上に相当する無償のコンサルティング支援を行うことを公約しています。

商号  : ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン・インコーポレイテッド
所在地 : 東京都港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー37階
URL   : https://www.bain.co.jp