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『別れるから今日中に出て行って』は通る? 同棲解消時の住まいトラブルを弁護士が解説 鍵交換・荷物処分が違法になるケースも

「別れるなら、この家から出て行って」「今日中に荷物をまとめて」――。
同棲していた恋人との関係が終わるとき、感情的な別れ話だけではなく、「誰がその家に住み続けるのか」という現実的な問題が発生します。
特に、賃貸契約の名義がどちらになっているのか、家具や家電を誰が購入したのか、引っ越し費用をどうするのかといった点で意見が対立し、トラブルに発展するケースは少なくありません。
しかし、相手から「出て行け」と言われたからといって、必ずしもその日のうちに退去しなければならないわけではありません。一方で、住み続ける権利があると思い込んで拒否し続けることで、別の法的問題につながる可能性もあります。
重要なのは、恋人同士の感情ではなく、その住まいについて誰がどのような権利を持っているのかを整理することです。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女関係の解消に伴う同棲解消トラブル、金銭請求、ストーカー被害、脅迫・恐喝を伴うケースなどについて相談を受けています。
本記事では、同棲を解消する際に「家から出て行ってほしい」と言われた場合、または退去を求められた場合に確認すべき住居の権利関係や、鍵交換・荷物処分など避けるべき対応について、法律の観点から解説します。
同棲そのものを直接保護する法律はない
まず前提として、婚姻届を出した夫婦には、民法が同居・協力・扶助の義務(民法752条)を定めています。しかし、婚姻届を出していない交際関係には、こうした規定が当然に適用されるわけではありません。交際を続けるかどうかは基本的に当事者の自由であり、「別れたい」と言われたこと自体を違法だと主張することは、通常は困難です。
もっとも、「別れたい」と言えることと、「今日中に出て行け」と言えることは別の話です。誰がその家に住み続けられるかは、別れの原因や感情ではなく、住まいの権利関係——とりわけ賃貸借契約の名義——で決まります。
名義によって結論は大きく変わる
① 相手の単独名義の賃貸物件
同棲では、もともと一方が借りていた部屋に他方が転がり込む形が多く、この場合、契約者でない側の居住は、契約者との間の使用貸借(無償で使わせてもらう契約。民法593条)と評価されるのが一般的です。
使用貸借は、期間も使用目的も定めていなければ、貸した側からいつでも解除することができます(民法598条2項)。期間の定めがなく目的だけがある場合でも、その目的に沿って使用するのに足りる期間が経過すれば解除が可能です(同条1項)。同棲を始めるにあたって期間や目的を明確に取り決めている例は多くないため、名義人側からの「使用貸借は終了した」という主張は、法律論としては通りやすい部類に入ります。
また、貸主(大家・管理会社)との関係では、賃借人の同居人は独立した占有者ではなく「占有補助者」として扱われることが多く、契約者でない同居人が貸主に対して居住の継続を主張することも容易ではありません。名義人が解約通知を出せば、契約そのものが終了します。
ただし、これは「言われたその日に出なければならない」という意味ではありません。この点は後述します。
② 自分の単独名義の賃貸物件
契約者が自分であれば、立場は逆になり、相手に退去を求める側になります。もっとも、相手が任意に応じない場合に実力で追い出すことはできません。
③ 2人の連名契約(ルームシェア型)
2人ともが賃借人として契約している場合、双方が賃借権を持っています。一方が他方を一方的に退去させることは難しく、どちらが残るのか、名義を単独に変更できるのかは、貸主の承諾も含めて調整する必要があります。
④ どちらかの持ち家の場合
所有者は、所有権に基づいて明渡しを求めることができます。他方、ペアローンなどで共有名義になっている場合は事情が異なり、共有者は共有物の全部について持分に応じた使用ができるため(民法249条1項)、他の共有者が一方的に使用を禁止することは原則としてできないと解されています。この場合は明渡しではなく、共有関係そのものをどう解消するかという問題になります。
「今すぐ出て行け」に従う義務はあるのか
契約上の権利があることと、それを実力で実現できることは、まったく別の問題です。
日本の法律では、権利を実現するために自ら実力を行使すること(自力救済)は原則として禁止されています。最高裁も、私力の行使は原則として法が禁じており、法律に定める手続によったのでは権利侵害に対抗できないような緊急やむを得ない特別の事情がある場合に、必要な限度で例外的に許されるにとどまる、という趣旨を判示しています(最高裁昭和40年12月7日判決)。
したがって、名義人であっても、相手の留守中に鍵を交換して締め出す、荷物を勝手に処分する、といった対応は避けるべきです。不法行為として損害賠償の対象になり得るほか、態様によっては住居侵入罪(刑法130条)や器物損壊罪(同261条)が問題になる可能性もあります。
正式に明渡しを実現するには、話し合いがまとまらなければ、明渡しを求める訴訟を提起し、判決を得たうえで強制執行という手順を踏むことになります。時間も費用もかかるため、実際には「いつまでに出るか」という猶予期間を協議で決める形で決着することが多いのが実情です。
一方で、求められた側にもリスクはあります。使用貸借が終了したと判断されれば、明渡しに加えて、居住を続けた期間について賃料相当額の損害金を請求される可能性があります。「絶対に出ない」と構えることが有利に働くとは限りません。現実的な準備期間を示して交渉するほうが、双方にとって負担が小さくなります。
引っ越し費用や慰謝料を請求できるか
交際の解消は原則として自由ですから、「同棲を解消された」というだけで慰謝料が認められることは、通常は期待できません。
例外となるのは、2人の関係が婚約、あるいは内縁(事実婚)と評価できる場合です。婚姻に準じた関係と認められれば、正当な理由のない一方的な破棄が不法行為にあたるとして、慰謝料が問題になり得ます。内縁かどうかは、夫婦としての共同生活の実態、同居期間、生計が一つになっているか、住民票の続柄の記載、親族との交流、挙式や子の有無といった事情を総合して判断されます。
なお、内縁関係が当事者の生存中に解消された場合には、離婚の際の財産分与の規定(民法768条)が類推適用されると解されています。他方、一方の死亡によって解消した場合について、最高裁は類推適用を否定しています(最高裁平成12年3月10日決定)。
引っ越し費用については、「相手の都合で出るのだから当然に負担してもらえる」と説明されることもありますが、そう単純ではありません。関係の解消が違法と評価される場合に損害の一部として考慮される余地はあるものの、通常の交際解消では、費用の分担は法的な義務というより話し合いで決める事柄と考えておくのが実際的です。
暴力や強い威圧を伴う場合
相手からの暴力や、身の危険を感じるような言動を伴う場合は、別の枠組みがあります。
DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)の保護命令は、法律上の夫婦だけでなく、事実婚の相手方、さらに生活の本拠を共にする交際相手にも及びます。令和5年の改正法(令和6年4月1日施行)により制度が拡充され、被害者への接近禁止命令は1年間、住居からの退去等命令は2か月間(住居の所有権者または賃借人が被害者のみである場合は、申立てにより6か月間)とされ、保護命令に違反した場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金の対象となります。
ここで重要なのは、契約名義が加害者側であっても、要件を満たせば加害者に住居からの退去を命じ得るという点です。身の危険を感じている状況では、退去の交渉を続けるより先に、警察や配偶者暴力相談支援センターに相談することを検討してください。
出る前に整理しておきたいお金と持ち物
退去そのものに合意できても、清算を曖昧にしたまま別れると、後日の紛争の火種になります。
敷金:返還されるのは契約者です。初期費用を折半していた場合は、別途精算の合意をしておかないと、名義人に全額返還されて終わることがあります。
家賃・光熱費:退去月の日割りや未払分の扱いを決めておきます。
家具・家電:誰が費用を出したのか、共同購入だったのか、分割払いの残債が残っていないかを確認します。購入時のレシートや振込履歴が判断材料になります。
保証人・連帯保証:相手の契約の保証人になっている場合、退去後も責任が残らないよう、貸主と手続を確認します。
合意する場合は、退去日、費用の分担、以後互いに債権債務がないこと(清算条項)を書面にしておくと、蒸し返しを防ぎやすくなります。
話がこじれたときに気をつけたい5つのこと
退去日などの期限は口頭で済ませず、書面やメッセージなど記録に残る形で確認する
その場の勢いで「◯日までに出る」「◯万円払う」と安易に約束しない
荷物の状況、鍵の受け渡し、支払いの記録を写真や明細で残しておく
相手が鍵の交換や荷物の持ち出しといった実力行使に出た場合は、応戦せず、警察や弁護士に相談する
やり取りの窓口を一本化し、深夜の連絡など感情的な応酬を避ける
まとめ
「同棲を解消したい」と言われたとき、家を出る義務があるかどうかは、まず契約の名義で決まります。相手の単独名義であれば、法律上は退去を求められる立場に立つことが多い一方、それは「即日出て行かなければならない」という意味ではありません。実力での追い出しは禁じられており、現実の解決は猶予期間と清算の話し合いに委ねられます。
逆に、退去を求める側も、感情に任せた実力行使は自らの法的責任につながります。婚約や内縁と評価できる関係だったのか、暴力が絡んでいないか、清算すべきお金は何か——判断に迷う点が多い場面ですから、話し合いが行き詰まる前に、早い段階で弁護士に相談しておくことをおすすめします。
この記事の監修者
若井 亮(わかい りょう)
/代表弁護士 弁護士法人若井綜合法律事務所(東京弁護士会所属)
男女問題・男女トラブルに強い法律事務所の代表弁護士。不倫慰謝料、妊娠トラブル、婚約破棄、パパ活トラブル、ストーカー被害など、他人に相談しづらい問題を穏便かつ内密に解決することを得意とする。相手の脅迫的な言動にも毅然と対応し、依頼者の平穏な生活を取り戻すために尽力している。
問い合わせ先
弁護士法人若井綜合法律事務所
TEL: 03-5924-6845
当事務所は、恐喝・脅迫被害をはじめとする男女間のトラブルを数多く取り扱ってまいりました(男女トラブルのご相談は類型23,000件以上お受けしてまいりました)。「家族や勤務先に影響が及ばないように」という点に最大限配慮しながら、内密かつ穏便な解決を最優先に対応いたします。すでに個人情報を知られてしまっている場合や、要求がエスカレートしている場合も、状況に応じて被害の拡大を防ぐ手立てがあります。
全国どこからでもご利用いただける無料相談を、メール・電話・LINEで24時間受け付けております。まずはお気軽にご相談ください。相談する勇気が、解決へとつながります。
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