プレスリリース
【岡山理科大学】宇宙養殖実験で初の論文掲載 微小重力下でのエビの食餌行動
岡山理科大学が取り組んでいる「宇宙養殖プロジェクト」は、宇宙探査の食糧基地としての役割が期待される月や火星で魚や甲殻類を養殖し、宇宙飛行士の食生活のQOL向上を目指すという夢のある研究です。宇宙や弱重力環境下で魚を育てるといっても、成魚のまま運搬すると効率が悪いので、どうしても稚魚か仔魚あるいは魚卵の状態で宇宙に持って行くしかありません。稚魚や仔魚は外的な刺激に弱く、無重力環境下でも餌をきちんと食べてくれるかどうか不明な点も多く、それが今回の実験の直接的な研究動機でした。
研究に取り組んでいるのは生命科学部の山本俊政准教授、田所竜介准教授、好適環境水センターの津村誠一招聘教授、フロンティア理工学研究所(通信教育部学科長)の牧祥教授らのグループです。
地上で無重力を作る方法として、パラボリックフライト(放物線飛行)や落下塔を使う方法があります。しかしこれらの方法はどれも長時間の実験には適しません。磁気力による方法も他大学で試しましたが、これもうまくいきませんでした。そこでグループは、「クリノスタット」を試すことにしました。
「クリノスタット」は直交する2つの回転軸で物体を遠心回転させ、重力の影響を打ち消すことで擬似無重力環境を実現する装置。ただし回転軸に対して固定された物体については擬似無重力状態を実現することはできても、魚のように水中で自在に姿勢を変えることができる試料については、その効果は発揮できません。一般的なクリノスタットの20 RPM(1分間の回転数)程度のゆっくりした遠心回転では、すぐに魚が水中で姿勢を戻し、遠心回転の負荷の小さくなる回転中心付近に移動してしまいます。つまり従来のクリノスタットでは魚に擬似無重力を体感させることが不可能なことは明白でした。
そこでグループは、魚が姿勢を戻す時間がないほど高速で回転する新しいクリノスタットを独自に製作することにし、専門メーカーに依頼しました。この改良型クリノスタットに、魚を入れる容器やカメラの固定具はもちろん、高速回転に耐えられる保護容器などを手作りで開発しました。本学サイエンスドリームラボ(工作センター)の亀山寛司技師の協力のおかげでした。
装置完成後、試行錯誤を繰り返して、ようやく稚エビが餌を食べる過程を動画撮影することに成功。そのエビの遺伝子解析(GO解析)を実施したところ、無重力環境にさらされたことが原因と思われる知見をいくつか発見しました。1回の実験で搭載できるエビの数はせいぜい1~3匹であることから、もっと実験標本を増やす必要性を感じたので、同じ甲殻類のアルテミアを使ってエビの実験結果を裏付ける補助実験も実施。アルテミアは全長がせいぜい1 mm程度で、成長も非常に早いため、一度に10匹のアルテミアを容器に入れて4日間の無重力曝露をさせることにしました。そのほかアルテミアのエサとなるテトラセルミスを用いた実験も行い、無重力下でもアルテミアがテトラセルミスを食餌していることを確認しました。
こうした実験にはすべて岡山理科大学が開発した好適環境水を利用しています。宇宙養殖の実現には好適環境水を用いるのが最も合理的かつ生産的だと思われるので、最適な好適環境水の条件を使って実験を実施しました。
研究をまとめた論文は2026年6月に国際学術誌「Microgravity Science and Technology」に掲載されました。論文タイトルは「In Situ Observation of Shrimp Feeding Process Under Microgravity Environment」です。岡山理科大学が宇宙養殖プロジェクトの研究を開始して最初に発表する学術論文です。
現在、グループは国際宇宙ステーション(ISS)に設置することを想定した水槽と同水量の飼育用水槽を開発中です。完全閉鎖循環式養殖システムを好適環境水で実現し、最低でも100日間の完全無換水での養殖を試みています。自動給餌装置を開発し、それを遠隔操作で制御する試みや、個体間の識別技術などにAI機能を搭載する計画など、いろいろ考案中です。
さらに仔魚の餌となるアルテミア、さらにアルテミアの餌となるテトラセルミスの飼育も試みています。チーム岡山理科大学が一丸となって、この宇宙養殖の夢の実現に向けて一歩ずつ頑張っています。
