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AirTagを勝手に入れたら犯罪?元恋人・配偶者・風俗キャストへのGPS追跡はどこからストーカーになる?

「別れた相手が今どこにいるのか気になる」「持ち物から見覚えのないAirTagが見つかった」「なぜか自分の居場所を知られている気がする」──こうした位置情報をめぐるトラブルは、身近な問題になりつつあります。
AirTagなどの紛失防止タグは、本来は忘れ物や落とし物を見つけるための便利な機器です。しかし、その仕組みを悪用して他人の居場所を把握するケースが相次ぎ、社会問題となっています。
こうした状況を受け、2025年12月にはストーカー規制法が改正され、AirTagなどの紛失防止タグを無断で取り付けて位置情報を取得する行為も、新たに規制の対象となりました。「元恋人だから」「夫婦だから」といった理由だけで追跡が許されるわけではありません。
この記事では、ストーカー規制法の基本的な考え方や法改正のポイントを整理するとともに、AirTagやGPSを使った追跡行為がどのような場合に違法となるのか、また、追跡されている可能性がある場合に取るべき対応について、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
この記事でわかること
AirTagやGPSによる追跡がストーカー規制法違反となるケース
2025年の法改正で何が変わったのか
元恋人・配偶者・風俗キャストなど、関係別の法的な考え方
追跡されている可能性がある場合に取るべき適切な対応
位置情報をめぐるトラブルは、初動の対応によってその後の被害や解決までの道筋が大きく変わることがあります。まずは正しい知識を身につけ、冷静に対応するためのポイントを確認していきましょう。
ストーカー被害の実情——「居場所を知られる」被害が増えている
ストーカー被害は、決して減っていません。警察庁の統計によれば、2024年(令和6年)に全国の警察へ寄せられたストーカー被害の相談等は約1万9,500件にのぼり、高い水準が続いています。同年のストーカー規制法違反の検挙は1,341件と過去最多を記録し、加害者につきまとい等を禁じる禁止命令等も初めて年間2,000件を超え、2,415件に達しました(警察庁「令和6年におけるストーカー事案等への対応状況について」)。
被害者の傾向としては、女性が全体のおよそ9割を占め、年代では20代・30代が中心です。相手方との関係では、交際相手や元交際相手が多くを占めています。
こうしたなかで近年目立つのが、位置情報を悪用した追跡被害です。SNSの投稿に写り込んだ背景、位置共有アプリ、そして紛失防止タグなど、「居場所を知る手段」が増え、その精度も上がっています。実際、AirTagなどの紛失防止タグを悪用したストーカーの相談件数は、2023年の196件から2024年には370件へと約2倍に増えたと報じられています(日本経済新聞・警察庁発表)。かつては、川崎市で被害を訴えていた女性が命を落とす事件も起き、警察の対応のあり方が検証されるなど、社会的な問題としても注目されています。
ストーカー規制法の基本
ストーカー行為とは
ストーカー規制法(正式名称:ストーカー行為等の規制等に関する法律)は、1999年の桶川ストーカー殺人事件を受けて2000年に施行された法律です。
同法が規制するのは、特定の人に対する「恋愛感情その他の好意の感情」または「それが満たされなかったことへの怨恨の感情」を満たす目的で行われる行為です。この点が大きなポイントで、単なる嫌がらせすべてを対象とするわけではありません。
規制の対象となる行為は、大きく次の2つに整理されます。
つきまとい等:住居・勤務先・学校などや、実際にいる場所の付近での見張り・押し掛け・うろつき、面会や交際の要求、無言電話や拒否後の連続した電話・メール・SNSメッセージの送信など。
位置情報無承諾取得等:相手の承諾を得ずに、GPS機器や紛失防止タグなどで位置情報を取得したり、これらの機器を相手の所持品に取り付けたりする行為。
これらを同一の人に対して反復して行うと「ストーカー行為」となり、処罰の対象になります。
罰則と行政措置
ストーカー行為をした者は、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処されます。さらに、公安委員会の禁止命令に違反してストーカー行為をした場合は、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金とより重くなります(2025年6月の刑法改正で「懲役」は「拘禁刑」に一本化されました)。
警察の対応としては、まず警告、続いて禁止命令という段階的な行政措置がありますが、悪質・切迫した事案では、警告を経ずに禁止命令が出されたり、直ちに逮捕に至ったりすることもあります。
AirTag・GPSは「どこから」アウトなのか——法改正の経緯
「持ち物を探すための便利な道具」であるはずのGPSや紛失防止タグが、なぜ犯罪の道具になるのか。その線引きは、法改正を重ねて明確化されてきました。
かつては「GPSで居場所を追っても罪に問えない」時代があった
大きな転機は、2020年7月の最高裁判決です。元交際相手の車にGPS発信機を取り付けて位置情報を繰り返し取得していた行為について、最高裁は、当時の条文が定める「見張り」(相手が実際にいる場所の付近で動静を観察する行為)には当たらないと判断しました。法律が、技術を使った新しい追跡の手口に追いついていなかったのです。
2021年改正——GPS機器を規制対象に
これを受けて、2021年(令和3年)8月に改正法が施行され、「GPS機器等を用いた位置情報の無承諾取得等」が新たに規制対象となりました。相手の承諾なくGPS機器を持ち物に取り付ける行為や、その位置情報を取得する行為が、直接に規制されるようになったのです。
ただし、この時点ではAirTagのような紛失防止タグは規制の"すき間"に残っていました。AirTag自体はGPS機能を内蔵しておらず、近くを通る他人のスマートフォンのBluetoothを介して位置を把握する仕組みのため、「自らの位置情報を記録・送信する装置」を前提とした当時の条文には当てはまらない、と整理されていたためです。
2025年改正——紛失防止タグ(AirTag等)も規制対象に
そして、2025年(令和7年)12月30日、改正ストーカー規制法が施行され、このすき間が埋められました。警察庁の説明によれば、主な改正点は次のとおりです。
紛失防止タグを用いた位置情報の無承諾取得等を規制対象に追加(イヤホンなど位置を特定できる機能を持つ機器も含む)。
被害者の申告がなくても、警察が職権で「警告」を出せる制度を創設。
被害者を雇用する事業者や就学先の学校長を、被害者支援の努力義務の主体に追加。
被害者の住居所在地を管轄する公安委員会等も、禁止命令等を出せるように変更。
あわせて改正DV防止法では、裁判所が出す接近禁止命令の対象に、紛失防止タグの無断取り付けが追加されました。さらに2026年3月10日からは、探偵業者など第三者が加害者に被害者情報を提供しないよう警察が求められる仕組みも始まっています。
つまり現在は、相手の承諾なくAirTagを持ち物や車に取り付け、位置情報を得る行為は、恋愛感情や怨恨の目的があればストーカー規制法違反になり得るということです。「タグだから大丈夫」という認識は、もはや通用しません。
位置情報無承諾取得等にあたるための要件
具体的には、次の要素をいずれも満たす場合に問題となります。
特定の人に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を満たす目的があること。
その人(またはその配偶者・親族など)に対して、承諾を得ないで行うこと。
GPS機器や紛失防止タグなどを使って位置情報を取得する、または機器を取り付けること。
これを反復すればストーカー行為として、罰則の対象になります。
関係別・「どこからストーカーになるか」と、問われうる罪
「どんな相手なら許されるのか」と考えがちですが、相手との関係によって"免罪"されるわけではありません。ここでは相談の多い3つの関係を整理します。
元恋人・元配偶者
別れた相手への未練や、「まだ自分のものだ」という思い、あるいは別れをめぐる恨みから位置情報を取得するケースは、恋愛感情や怨恨の感情という要件に最も当てはまりやすい典型例です。相手が行動パターンを知っている分、被害が深刻化しやすい関係でもあります。
配偶者(婚姻中)
「夫婦なのだから、現在地を把握して当然」と考える方もいますが、婚姻中であっても、承諾なく位置情報を取得すればストーカー規制法の問題となり得ます。前述のとおり、改正DV防止法では接近禁止命令の対象に紛失防止タグの無断取り付けが加えられており、家庭内の追跡も明確に規制の視野に入っています。「浮気を疑って」という動機であっても、正当化はできません。
風俗キャストなど、夜の仕事に従事する女性
源氏名で働くキャストにとって、本名・自宅・出退勤時間を客に知られることは、生活の安全に直結する重大な被害です。客が好意や恋愛感情から店の行き帰りを追跡すれば、ストーカー規制法違反となり得ます。仮に恋愛感情などの要件を欠く場合であっても、後述する住居侵入罪やプライバシー侵害などが問題となる余地があります。
AirTag・GPSの無断設置で問われうる罪
位置情報の取得は、ストーカー規制法だけの問題にとどまりません。設置の方法によっては、次の犯罪が併せて成立し得ます。
住居侵入罪(刑法130条):機器を取り付けるために、住居の敷地や車庫などに立ち入った場合。3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金。
器物損壊罪(刑法261条):取り付けの際に相手の物を壊した場合など。
不正指令電磁的記録供用罪など:相手のスマートフォンに無断で位置情報アプリ等を入れて追跡した場合に問題となり得ます。
プライバシー侵害(民法709条):刑事責任とは別に、勝手に位置情報を取得されたことによる精神的苦痛について、被害者は加害者へ慰謝料を請求できます。
なお、位置情報を取得する目的が恋愛感情等ではない場合(たとえば金銭目的など)には、ストーカー規制法違反にはあたりません。ただしその場合でも、住居侵入罪や民事上の責任などが残り得る点に注意が必要です。
参考:報道されている事案(一般化した例)
実際の摘発例のイメージとして、公開報道から一般化した例を挙げます(いずれも当事務所が取り扱った事件ではありません)。
元交際相手の車にGPS発信機を繰り返し取り付けて位置情報を取得していた事案(2020年の最高裁判決の事案)。現在の法律のもとでは、こうした行為は規制対象です。
職場の同僚だった女性の車に無断でAirTagを取り付け、位置情報を取得していた男性が、ストーカー規制法違反の疑いで書類送検された事案(2022年報道)。
ファンだった男性が、女性タレントの車にGPS機器を取り付けたとして、ストーカー規制法違反の疑いで逮捕された事案(2022年報道)。
追跡されているかもしれないと感じたら——被害者側の対処法
「気のせいかもしれない」と様子を見ているうちに、被害がエスカレートすることは少なくありません。次の手順を意識してください。
1. まず安全を確保し、相手を刺激しない
身の危険を感じる場合は、自宅に直帰せず、人通りの多い場所や店舗・交番に入るなど、安全の確保を最優先にしてください。相手を問い詰めるなど、直接的な対決は避けるのが基本です。
2. 機器を安易に処分せず、証拠を残す
バッグや車から見慣れないタグ・機器が見つかっても、すぐに捨てたり壊したりしないでください。それは加害者を特定し、被害を立証するための重要な証拠になります。発見した状況を写真に残し、iPhoneの「探す」アプリに表示された不明なタグの通知、Android端末での検知結果、車のバッテリーの異常な消耗など、気づいたサインも記録しておきましょう。機器を取り外す前に、警察や弁護士へ相談することをおすすめします。
3. 自分から居場所の情報を渡さない
SNSでのリアルタイムな位置情報の投稿を控え、投稿の公開範囲やフォロワー設定を見直しましょう。位置共有アプリやスマートフォンの位置情報の共有設定も、意図しない相手に開かれていないか確認してください。
4. 警察に相談する
不安を感じたら、警察相談専用電話「#9110」や最寄りの警察署へ相談してください。急迫の危険を感じるときは、ためらわず110番を。証拠がそろっていれば、警告や禁止命令などの措置につながりやすくなります。2025年の改正で、被害者の申告がなくても警察の職権で警告を出せるようになりました。
5. 弁護士に相談する
「家族や勤務先に知られたくない」「相手と直接やり取りしたくない」という事情がある場合は、弁護士への相談が有効です。弁護士は、加害者との交渉の窓口となって接触を遮断し、二度と追跡しないことを約束させる示談交渉や、慰謝料の請求、接近禁止に向けた対応を代理で進めることができます。夜の仕事に従事する方については、在籍店や源氏名への配慮を踏まえた対応も可能です。

まとめ
AirTagやGPS機器は、日常生活を便利にする一方で、使い方を誤れば他人のプライバシーを侵害し、ストーカー規制法違反などの犯罪につながる可能性があります。
2025年の法改正により、AirTagなどの紛失防止タグを無断で取り付けて位置情報を取得する行為も、明確に規制の対象となりました。「元恋人だから」「配偶者だから」「相手を心配していただけ」といった事情があっても、相手の承諾なく追跡することが正当化されるわけではありません。
一方で、追跡されている疑いがある場合には、機器をすぐに処分するのではなく、証拠を残したうえで適切な対応を検討することが重要です。状況によっては、ストーカー規制法だけでなく、住居侵入罪やプライバシー侵害など複数の法的問題が関係することもあります。
位置情報を利用したトラブルは、感情的な対立から深刻な事件へ発展するケースも少なくありません。不安を感じた場合や、自分だけでは対応が難しいと感じる場合には、一人で抱え込まず、警察や弁護士などの専門機関へ早めに相談することも重要な選択肢です。
正しい知識と冷静な対応が、自分自身の安全と権利を守る第一歩になります。
問い合わせ先: https://wakailaw.com/contact/
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この記事の監修者
若井 亮(わかい りょう)
/代表弁護士 弁護士法人若井綜合法律事務所(東京弁護士会所属)
DV・ストーカー被害、金銭トラブル、不当要求対策など、男女間の問題を中心に個人の相談者に寄り添う法律事務所の代表弁護士。他人に相談しづらい問題を、穏便かつ内密に、そして早期に解決することを得意とする。依頼者の平穏な生活を取り戻すことを第一に対応している。
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