プレスリリース
WE Tech Solutions × NAPA共同セミナー開催
「脱炭素化の現実解は“燃料転換だけではない”―電力最適化とデータ活用の重要性を提起」
フィンランドの海事エネルギーソリューション企業WE Tech Solutionsと、船舶設計・運航解析ソリューションを展開するNAPAは5月26日、駐日フィンランド大使館において共同セミナーを開催した。テーマは「脱炭素化:燃料転換か、電力最適化か ― 真の前進への道は何か?」。海運業界が2050年ネットゼロに向けて移行を進める中、燃料転換だけに依存しない“現実的な脱炭素化戦略”について議論が交わされた。
当日は、WE Tech SolutionsのHenri Kinnunen CEO、Olli-Pekka Aalto CCO、NAPA Groupの水谷直樹氏(EVP for NAPA Studios / NAPA Japan Managing Director)が登壇。さらに、日本郵船(NYK)、Inspirers Consultingを交えたパネルディスカッションも実施され、技術導入の実効性、投資回収性、運航データ分析の重要性などについて意見交換が行われた。
電力最適化による「現実的な脱炭素化」
WE Tech SolutionsのHenri Kinnunen CEOは、「Powering the Transition to Efficient and Zero-Emission Shipping」と題した講演で、海運業界における電化・ハイブリッド化の重要性を説明した。
同氏は、IMOによるEEDI、EEXI、CIIなどの環境規制強化に加え、船内電力需要の増加や運航効率向上要求が、船舶の電力システム改革を後押ししていると指摘した。
WE Techは、シャフトジェネレーター、DC配電、エネルギーマネジメントシステム、蓄電池システムなどを統合した「ハイブリッド海洋エネルギーソリューション」を展開しており、現在までに300件超の導入実績を有する。日本関連案件も40件以上に達しているという。 特に注目されたのは、主機関を活用した発電による燃費改善効果だ。一般的に補機関は部分負荷運転時に燃費効率が悪化しやすい一方、主機関を利用した発電では燃料利用効率を高めることができる。WE Techはこれにより、補機運転時間を削減し、燃料消費とCO2排出を抑制できると説明した。
また、同社は船種別のROI試算も紹介。LNG船では年間約71.5万ドル、PCTCでは年間約19万ドル、アフラマックスタンカーでは年間約15万ドル規模の燃料削減効果が期待でき、投資回収期間は概ね1〜5年程度になるとの見方を示した。
Kinnunen CEOは、「脱炭素化は単なる規制対応ではなく、運航効率改善とコスト削減を同時に実現する経営課題になっている」と強調した。
「カタログ値ではなく実データで証明する時代」
続いてNAPAの水谷直樹氏は、「Beyond Installation: Verifying Real-World Performance of Energy Saving Technologies Through Data」と題し、省エネ技術(EST/ESD)の“実証”をテーマに講演を行った。 水谷氏は、「省エネ装置を導入するだけでは十分ではなく、その技術が実際の運航でどれだけ効果を出しているかを、データによって客観的に証明することが重要になっている」と指摘した。
NAPAでは、運航データ、気象データ、AISデータなどを用いて物理ベースのモデルとデータサイエンスを組み合わせた“デジタルツイン”ベースの性能分析を展開している。 同氏は、風力補助推進装置(WAPS)を搭載したタンカーのシミュレーション事例を紹介。住友重機械工業およびNorsepowerと共同で、ローターセイル搭載船の性能分析を行った結果、最適航路との組み合わせにより、CO2排出量を平均28%削減できたと説明した。 また、NAPAは、導入前のシミュレーションだけでなく、導入後の実海域データ解析にも注力している。正午報告(Noon Report)、MRVデータ、センサーデータなどを用いて、実際のCO2削減効果や燃費改善を定量分析するサービスを提供しているという。
水谷氏は、「船主にとって重要なのは、“導入した省エネ技術が本当に利益を生んでいるのか”という点だ。今後はカタログスペックではなく、実運航データによるエビデンスが投資判断の鍵になる」と述べた。
パネル討論:「燃料転換だけでは間に合わない」
後半のパネルディスカッションでは、「燃料転換か、電力最適化か」というテーマを軸に議論が展開された。
パネリストからは、「脱炭素化は単一技術で解決できるものではなく、燃料転換、運航最適化、電力システム改善などを組み合わせる必要がある」との見方が相次いだ。
特にWE Tech側からは、「2030年目標への対応を考えれば、既存船改造(レトロフィット)が現実的な選択肢になる」との意見が示された。
新造船は長期的な最適化が可能である一方、建造コストや納期、ヤードキャパシティ不足などの課題があり、「短期的にはレトロフィットによる即効性ある削減と、長期的な新造船戦略を並行して進めることが重要」との認識が共有された。
また、技術選定についても、「唯一絶対の正解は存在しない」との考えが示された。AC配電、DC配電、ESS、PTO/PTIなどの技術は、船型や運航パターンによって最適解が異なるとし、「重要なのは、技術を追加することではなく、実際の運航価値を生む技術だけを選択することだ」との指摘もあった。
さらに、人手不足と自動化についても議論が及び、電化・自動化は保守負荷軽減や運航支援に有効である一方、「人を不要にするのではなく、必要なスキルを変えていく」との見解が示された。
パネル討論:「単独技術では脱炭素化は達成できない」
後半のパネルディスカッションでは、「脱炭素化:燃料転換か、電力最適化か ― 真の前進への道は何か?」をテーマに、WE Tech Solutions、NAPA、日本郵船(NYK)、Inspirers Consultingの各登壇者が、それぞれの立場から実務的な視点を共有した。
モデレーターを務めたStar Marine PRの吉田麻貴氏は冒頭、「燃料転換だけでなく、投資性、運用性、規制対応を含めた“現実的な脱炭素化”を議論したい」と述べ、技術論だけに留まらない議論を促した。
「重要なのは組み合わせ」――NAPA 水谷氏
まず、「脱炭素化の本筋は何か」という問いに対し、NAPA Group EVP for NAPA Studios / NAPA Japan Managing Directorの水谷直樹氏は、「単独で脱炭素化を達成できる解決策はなく、ハードウェアとしての船の性能向上と、運航の最適化——設計と運航の両面でのアプローチが重要」と述べた。その際、「省エネ技術の効果は、船型や運航条件などによって大きく異なる」とも指摘し、一律の解決策ではなく、各船の実態に即した判断が必要との考えを示した。
その上で水谷氏は、「導入した省エネ技術が本当にお金を節約しているのかを説明できることだ」と強調した。「従来はベンダーのカタログ値が基準だったが、今後は実際の運航データに基づく独立した第三者による客観的な証明が、脱炭素化を前進させる重要なステップになる」との考えを示した。
特にEU ETSやFuelEU Maritimeなど、財務的インパクトを伴う制度が本格化する中、「実データに基づく評価」が投資判断や企業価値にも直結していくとの見方を示した。
「既存船改造が現実解」――WE Tech Solutions アアルト氏
WE Tech SolutionsのCCO、Olli-Pekka Aalto氏は、技術実装の観点から、レトロフィット(既存船改造)の重要性を強調した。
同氏は、「2030年目標への対応が必要な船舶の多くは、すでに就航している」と述べ、「新造船を待つだけでは間に合わない」と指摘。そのため、短中期的にはレトロフィットが最も現実的な選択肢になるとの見方を示した。
特に、レトロフィットの利点として、比較的小規模な投資で導入可能であり、投資回収期間が比較的短く、将来燃料を現時点で決め打ちしなくてよい、柔軟性を確保できる点を挙げた。
一方で、新造船については、「船全体として最適化できる長期的メリットはある」としつつも、建造費高騰、長納期、造船所スロット不足といった課題を指摘。「実務上は“どちらか一方”ではなく、短期はレトロフィット、長期は新造船最適化という並行戦略が重要」と述べた。
「唯一の正解は存在しない」――技術選択の現実
技術選択についても、Aalto氏は「唯一絶対の最適技術は存在しない」と明言した。
例えば、AC(交流)配電は依然として一般商船で標準的であり、シンプルかつ堅牢である一方、DC(直流)配電は負荷変動の大きい船舶やハイブリッドシステムで強みを発揮すると説明。「DCがACを置き換えるのではなく、柔軟性が必要な場面で補完する存在」と位置付けた。
また、ESS(蓄電池)についても、「必須技術として語られがちだが、実際には“必要な課題”がある場合にのみ価値がある」と指摘。ピークシェービング、港湾内ゼロエミッション運航、主機負荷最適化には有効である一方、負荷変動が小さい船舶では投資効果が限定的と説明した。
その上で、「バッテリーはエネルギー源ではなく“制御ツール”だ」と述べ、“導入ありき”ではなく、実際の運航価値を基準に技術を選ぶべきとの考えを示した。
「重要なのは推進性能」――NYK 佐藤氏
日本郵船(NYK)の佐藤英彦氏は、船主側の視点から、投資判断や技術選定についてコメントした。
同氏は、「CAPEX、OPEXの両方が重要だが、最終的には“どれだけ早く投資回収できるか”が大きな判断基準になる」と説明。ただし、投資回収期間については、「船種や船齢によって現実的な期間は異なる」とし、一律には語れないとの見方を示した。また、「技術のTRL(技術成熟度)を常に見極め、その時点で最適な組み合わせを選ぶことが重要」と述べ、固定観念にとらわれない柔軟な技術選定の必要性を指摘した。
特に印象的だったのは、「推進性能の向上こそが最優先課題」との発言だ。佐藤氏は、「どんな脱炭素技術を導入しても、推進性能そのものが悪ければ費用対効果は大きく損なわれる」と述べ、「推進性能改善は、どの時代でも最重要テーマであり続ける」と強調した。
「人が不要になるわけではない」――電動化と人材
議論では、電動化・自動化と人手不足についても意見交換が行われた。
Aalto氏は、「電動化と自動化は、船上システムの複雑化に対応する上で不可欠」としつつも、「技術進化だけでは人手不足問題は解決しない」と指摘した。 電動化によって保守負荷低減や信頼性向上は期待できる一方、今後は船上でより高度な電気・デジタルスキルが求められるとの見方を示した。その上で、「自動化によって“人が不要になる”のではなく、“人の役割が変わる”のだ」と述べ、人材育成や組織適応の重要性を強調した。
「理想論」から「実装論」へ
今回のパネルでは、燃料転換そのものを否定する声はなかった一方で、「燃料だけでは解決できない」という認識が各登壇者に共通していた。
むしろ、実運航で効果が出るか、投資回収や実データでの証明できるか、 既存船へ適用可能か といった、“実装可能性”が議論の中心となった点が特徴的だった。
海運業界が「理想論」から「実装論」のフェーズへ移行しつつあることを象徴するパネルディスカッションとなった。
“実効性”が問われる時代へ
今回のセミナーでは、単なる「脱炭素化技術の紹介」に留まらず、「実際に削減できるのか」「投資回収できるのか」「既存船に適用できるのか」といった、より実務的な観点に議論が集中した点が特徴的だった。
海運業界では、次世代燃料への期待が高まる一方、その供給インフラや価格、技術成熟度には依然不透明感も残る。その中で、電力最適化や運航データ活用による即効性あるCO2削減アプローチが、現実的な移行戦略として存在感を高めている。
WE Tech SolutionsとNAPAは今回、日本市場においても「脱炭素化の“理想論”ではなく、“実装論”を支える技術とデータ」を提示した形となった。
WE Tech SolutionsのCCO、Olli-Pekka Aalto氏は、技術導入の実務面について、「海運業界では“唯一絶対の正解”となる技術は存在しない」と述べ、船舶ごとの運航実態に応じた技術選択の重要性を強調した。
同氏は、DC(直流)配電とAC(交流)配電について、「ACは依然として一般商船で標準的なシステムであり、シンプルかつ堅牢性が高い」と説明。一方で、DC配電については、「負荷変動が大きい船舶やハイブリッドシステムにおいて非常に有効であり、より柔軟なエネルギーマネジメントや複数電源の統合を可能にする」と述べた。
その上で、「DCがACを置き換えるのではなく、柔軟性が求められる場面でACを補完する存在だ」と位置付け、船型や運航条件によって最適解は異なるとの考えを示した。
また、ESS(蓄電池システム)についても、「近年は“必須技術”のように扱われることがあるが、実際には“解決すべき課題”が存在する場合にのみ価値を持つ」と指摘した。
例えば、ピークシェービングや港湾内でのゼロエミッション運航、主機負荷の最適化には高い効果を発揮する一方、負荷変動が少ない船舶ではメリットが限定的になると説明。「バッテリーはエネルギー源ではなく、“制御ツール”である」との表現を用い、“導入ありき”ではなく、実運航上の価値を基準に判断すべきとの考えを示した。
さらに、PTO/PTI(軸発電・推進補助)については、「実運航で非常に実用性が高い技術」と評価。余剰動力を利用した発電や推進補助によって主機関をより効率的に活用できるため、補機関使用を削減し、燃費改善とCO2削減の両立につながると説明した。
Aalto氏は、「重要なのは技術を増やすことではなく、“本当に運航価値を生み出す技術だけを選択すること”だ」と強調し、脱炭素化技術の選定においては、カタログスペックではなく、実際の運航条件に基づいた評価が不可欠との認識を示した。
また、電動化・自動化と人手不足についても議論が及び、同氏は「脱炭素化とデジタル化によって、船舶システムは今後さらに複雑化していく」と指摘した。
その一方で、電動化は可動部品削減による保守負荷軽減や信頼性向上に寄与し、自動化はモニタリング強化や意思決定支援を可能にすると説明。ただし、「技術進化のスピードに対し、実際の導入、規制整備、人材教育は追いついていない」とも述べた。
特に印象的だったのは、「電動化や自動化によって“人が不要になる”わけではない。むしろ“人の役割が変わる”のだ」というコメントだ。
今後は、船上においても電気・デジタル分野に関するより高度なスキルが求められるようになるとし、「現在の最大のボトルネックは技術そのものではなく、その技術を活用できる人材や組織へ、どれだけ迅速に適応できるかにある」と述べ、海運業界における人材育成の重要性を強調した。
三者間署名式:戦略的協力関係の強化
セミナー期間中、WE Tech Solutions、NAPA、そしてKlaveness Combination Carriersの3社間で覚書(MoU)が締結され、協業を通じて海運業界の脱炭素化を推進するための重要な一歩となった。
本パートナーシップでは、実運航データを活用した軸発電機ソリューションの検証および、投資判断を支援することに重点を置苦ことになる。
この協力関係は、拡張性があり、かつ商業的にも実現可能な脱炭素化への道筋に対する、3社共通のコミットメントを示す。