プレスリリース
芝浦工業大学、「曲がりたい」と「転びそう」を見分ける 電動バイク制御技術を開発 ~運転者の意図を理解し、必要なときだけ転倒防止を支援~
芝浦工業大学(東京都江東区/学長 山田純)システム理工学部 桑原央明准教授(実世界情報メカトロニクス研究室)と大学院理工学研究科修士課程 塚瀬翔太氏は、運転者の運転意図をリアルタイムに推定し、必要な場合にのみ車体の安定化制御を行う「運転者意図認識型・状況適応安定化制御システム」を開発しました。
本技術は、ハンドルと前輪を電気的に接続するSteer-by-Wire(SBW)技術と人工知能(機械学習)を融合したものです。SBWにより、運転者がハンドルに加える力と、タイヤが路面から受ける反作用力を分離して取得できるため、運転者が自ら曲がろうとしているのか、それとも転倒につながる不安定な状態に陥っているのかを識別できます。これにより、従来の運転支援システムで課題となっていた「曲がろうとしているのに制御が邪魔をする」といった不要な介入を防ぎながら、安全性の向上を実現します。
本研究成果は、メカトロニクス分野の国際学術誌「IEEE/ASME Transactions on Mechatronics」に掲載されました。

「曲がりたい」と「転びそう」を見分ける電動バイク
■ポイント
・機械学習により運転者の「直進」「旋回」「不安定状態」をリアルタイムに識別
・転倒の危険がある場合のみ安定化制御を作動し、自然な操縦感覚を維持
・Steer-by-Wireにより、運転者がハンドルに加える力と路面からの反作用力を分離して取得運転者の作用力情報を用いることで、「曲がりたい」という意図をより正確に推定
・運転者の意図を理解した上で支援を行う人間中心型の運転支援技術を実現
・高齢者向けモビリティや電動アシスト自転車、配送モビリティへの応用が期待される
■研究背景
自動車分野では、自動運転や高度運転支援システム(ADAS)の実用化が進んでいます。一方で、自転車や電動バイクなどの二輪車では、車体を傾けながら旋回するという特有の運動特性を持つため、運転者の意図と転倒リスクを区別することが難しく、高度な運転支援技術の実用化は限定的でした。
従来の安定化制御では、車体が傾くと自動的に姿勢を戻そうとするため、運転者が意図的に旋回しようとした場合でも制御が介入し、操作感を損なうという課題がありました。また、通常の機械式ハンドルでは、運転者が加えた操作力と、路面からタイヤを通じて伝わる反力が混在するため、運転者の意図を力の情報から正確に読み取ることが困難でした。
■研究内容
本研究では、Steer-by-Wireを搭載した実験用電動バイクを開発しました。このシステムでは、ハンドルと前輪を機械的に切り離し、電気信号によって操舵を行います。これにより、運転者がハンドルに加える力と、タイヤが路面から受ける反作用力を分離して抽出できます。運転者がハンドルに加える力には、「曲がりたい」「姿勢を保ちたい」といった操作意図が反映されます。一方、路面からの反作用力には、走行状態や路面状況、車体の不安定さに関する情報が含まれます。本システムでは、これらを分けて扱うことで、運転者の意図と車体の状態をより正確に推定します。
さらに、車速、操舵角、車体の傾き、路面反力などの情報を機械学習に入力し、深層学習モデル(LSTM)によって走行状況を「直進」「旋回」「不安定状態」の3つに分類します。
システムが「不安定状態」と判断した場合のみ、車体姿勢を回復させる安定化制御を作動させ、一方で「旋回」と判断した場合には制御を介入させず、運転者本来の操縦を尊重します。
実験では、カーブ走行時と転倒につながる不安定状態を高精度で識別し、適切なタイミングでのみ姿勢制御を行えることを実証しました。
■今後の展望
本技術は、従来の「車体を安定化させる」制御から一歩進み、「運転者の意図を理解したうえで支援する」人間中心型の運転支援技術です。
今後は、より多様な走行環境への対応や路面状況推定技術の高度化を進めるとともに、高齢者向け転倒防止自転車、電動アシスト自転車、配送用二輪モビリティ、自律移動ロボットなどへの応用を目指します。
■論文情報
論文タイトル:Rider-Intent-Aware Scenario-Adaptive Stabilization Control for a Steer-by-Wire Bike
掲載誌 :IEEE/ASME Transactions on Mechatronics
DOI :10.1109/TMECH.2026.3699418
Print ISSN :1083-4435
Online ISSN :1941-014X
■芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/
理工系大学として日本屈指の学生海外派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の大学です。東京都(豊洲)と埼玉県(大宮)に2つのキャンパス、4学部1研究科を有し、約10,000人の学生と約300人の専任教員が所属。2024年には工学部が学科制から課程制に移行。2025年にデザイン工学部、2026年にはシステム理工学部で教育体制を再編し、新しい理工学教育のあり方を追求していきます。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。