報道関係者各位
    プレスリリース
    2026年9月24日 14:00
    学校法人近畿大学

    急性心筋梗塞治療時の抗血小板療法を日本発の大規模試験で検証 世界的潮流であるアスピリン早期中止戦略に新たな知見

    心臓のイメージ画像
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    近畿大学医学部(大阪府堺市)内科学教室(循環器内科部門)主任教授 中澤学、同助教 髙橋邦彰らの研究グループは、帝京大学医学部(東京都板橋区)臨床医学・内科学講座主任教授 上妻謙、岩手医科大学(岩手県紫波郡)内科学講座循環器内科分野教授 森野禎浩、東海大学医学部(神奈川県伊勢原市)内科学系循環器内科学教授 伊苅裕二と共同で、国内69施設の医療機関が参加した多施設無作為化臨床試験において、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)※1 に対する緊急経皮的冠動脈インターベンション(PCI)※2 で、心筋梗塞の再発などを防ぐため治療開始時から行う抗血小板療法※3 として、従来の「抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)※4」に対し、治療開始時からアスピリンを使用しない「プラスグレル単剤療法」が、新たな治療戦略となり得るかを検証しました。その結果、「プラスグレル単剤療法」では心筋梗塞の再発などが増加したことから、近年世界的に広がるアスピリン早期中止の流れのなかでも、急性心筋梗塞の治療開始時からアスピリンの使用を省略する治療戦略は慎重に検討すべきであると示唆されました。本研究は、再発性血栓リスクの高い急性心筋梗塞の患者において、治療開始時からアスピリンを省略する治療戦略を大規模無作為化試験で検証した世界初の研究で、今後より安全で効果的な抗血小板療法の検討に貢献することが期待されます。
    本件に関する論文が、令和8年(2026年)8月29日(土)にアメリカのマサチューセッツ内科外科学会が発行する世界有数の医学学術誌「The New England Journal of Medicine(ニューイングランド ジャーナル オブ メディシン)」に掲載されました。

    【本件のポイント】
    ●ST上昇型心筋梗塞の患者を対象に、治療開始時からアスピリンを使用しない抗血小板療法を大規模無作為化臨床試験で検証
    ●プラスグレル単剤療法は、従来のアスピリンを使用するDAPTと比較して重大な出血が少なかった一方、心筋梗塞の再発などが多い傾向を認めた
    ●本研究成果は、近年世界的に広がるPCI後のアスピリン投与期間短縮の流れに一石を投じ、今後より安全で効果的な抗血小板療法の検討に貢献することに期待

    【本件の背景】
    急性心筋梗塞は、心臓に酸素や栄養を送る冠動脈が血栓などによって突然閉塞することで発症する疾患で、心筋が壊死してしまうため生命に関わります。現在では、カテーテルを用いて閉塞した冠動脈を再開通させる、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が標準的な治療となっています。PCI後は、心筋梗塞の再発などを防ぐため、一般的にアスピリンとP2Y12阻害薬(プラスグレルなど)という2種類の作用機序が異なる抗血小板薬を併用する「抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)」が行われます。
    一方、抗血小板薬を複数使用すると出血のリスクが高まるため、近年ではアスピリンの投与期間を短縮し、PCI後1~3カ月時点で使用を中止する治療戦略が世界的に検証されてきました。しかし、再発性血栓形成のリスクが特に高い急性心筋梗塞患者に対して、PCI時からアスピリンを完全に使用しない治療が可能かどうかについては、十分なエビデンスがありませんでした。
    そこで本研究では、急性心筋梗塞のなかでも直ちにPCIが必要となる「ST上昇型心筋梗塞」で、緊急PCIを受ける患者を対象として、治療開始時からアスピリンを使用せず、抗血小板薬であるプラスグレル1種類のみを低用量で服用する「プラスグレル単剤療法」が、従来のDAPTに代わる治療戦略となり得るかを検証しました。

    【本件の内容】
    研究グループは、国内の69施設の医療機関で、多施設共同、非盲検、無作為化比較試験を実施しました。ST上昇型心筋梗塞で緊急PCIを受ける患者を、PCI前に無作為に2つの治療群に割り付けました。一方には「低用量プラスグレル単剤療法」を、もう一方にはアスピリンと低用量プラスグレルによる「DAPT」を行い、12カ月間追跡しました。主要評価項目は、12カ月以内の全死亡、脳卒中、心筋梗塞の複合イベントとしました。
    その結果、プラスグレル単剤療法ではDAPTと比較して出血イベント(出血、出血性合併症、治療中に起こる出血)が少なかった一方、虚血性イベント(心筋梗塞の再発など)が多い傾向が認められました。特に、DAPTでは1.3%だった心筋梗塞の再発率が、プラスグレル単剤療法では2.9%と2倍以上高い結果になりました。
    これらの結果から、ST上昇型心筋梗塞という虚血性イベントのリスクが高い病態では、出血を減らすことのみを目的として治療開始時からアスピリンの使用を省略することには慎重であるべきと示されました。近年、PCI後のアスピリン投与期間を短縮し、早期にアスピリンを中止する「アスピリンフリー戦略」が世界的に広がるなか、本研究は、心筋梗塞急性期におけるアスピリンの役割を改めて問い直し、こうした潮流に一石を投じる重要な結果となりました。

    【論文掲載】
    掲載誌:The New England Journal of Medicine(インパクトファクター:84.5 [2025])
    論文名:Aspirin Omission at the Time of Primary Percutaneous Coronary Intervention in STEMI
        (ST上昇型心筋梗塞に対する緊急カテーテル治療時のアスピリン省略)
    著者 :髙橋邦彰1、上妻謙2、森野禎浩3、柏原康佑4、大竹寛雅5、諏訪哲6、七里守7、村松崇8、
        安齋均9、白壁章宏10、山本雅史11、浅海泰栄12、佐久間理吏13、岡山英樹14、
        中林圭介15,16、緒方信彦17、重城健太郎18、若林公平19、楠山貴教20、大西祐子21、
        芦田和博22、三ツ橋佑哉23、西本裕二24,25、山崎誠治26、栗山根廣27、伊苅裕二28、
        中澤学1* *責任著者
    所属 :1 近畿大学医学部内科学教室(循環器内科部門)
        2 帝京大学医学部内科学講座 循環器内科
        3 岩手医科大学内科学講座循環器内科分野
        4 東京大学医学部附属病院 臨床研究推進センターデータサイエンス室
        5 神戸大学大学院医学研究科内科学講座 循環器内科学分野
        6 順天堂大学医学部附属静岡病院 循環器内科
        7 榊原病院循環器内科
        8 藤田医科大学病院 循環器内科
        9 太田記念病院 循環器内科
        10 日本医科大学千葉北総病院 集中治療室
        11 君津中央病院 循環器内科
        12 国立循環器病研究センター 心臓血管内科
        13 獨協医科大学病院 心臓・血管内科/循環器内科
        14 愛媛県立中央病院 循環器内科
        15 春日部中央総合病院循環器科
        16 獨協医科大学埼玉医療センター 循環器内科
        17 上尾中央総合病院 循環器内科
        18 埼玉医科大学総合医療センター 心臓内科
        19 昭和医科大学江東豊洲病院 循環器内科
        20 ツカザキ病院 循環器内科
        21 平塚共済病院 循環器内科
        22 聖隷横浜病院 心臓血管センター内科
        23 東京都立多摩総合医療センター 循環器内科
        24 大阪急性期・総合医療センター 心臓内科
        25 市立豊中病院 循環器内科
        26 札幌東徳洲会病院 循環器内科
        27 宮崎市郡医師会病院 循環器内科
        28 東海大学医学部付属病院 循環器内科
    URL :https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2606997
    DOI :10.1056/NEJMoa2606997

    【本件の詳細】
    急性心筋梗塞の標準治療であるPCIで行う冠動脈ステント治療後には、血栓形成を防ぐ目的でアスピリンとP2Y12阻害薬を併用するDAPTが長年にわたり標準治療として用いられてきました。しかし、DAPTは虚血性イベントを予防する一方で、出血イベントを増加させるという課題があります。そのため近年では、DAPTの期間を短縮し、P2Y12阻害薬単剤へ早期に移行する治療戦略について多くの研究が行われています。しかし、これまでの研究の多くではPCI後1~3カ月間のDAPTを行った後にアスピリンを中止しており、急性心筋梗塞のPCI時からアスピリンを使用しない治療については十分に検証されていませんでした。
    国内69施設の医療機関が参加した多施設無作為化臨床試験である今回の「PREMIUM試験」では、この治療戦略をST上昇型心筋梗塞患者においてPCI開始時点から検証しました。その結果から、アスピリンを最初から省略した群では出血イベントが少なかった一方、虚血性イベントが多い傾向が認められました。主要評価項目はプラスグレル単剤群で11.0%、DAPT群で8.5%発生し、単剤療法のDAPTに対する非劣性は示されませんでした。一方、重大な出血イベントはプラスグレル単剤群で5.6%、DAPT群で8.4%でした。
    本研究は、抗血小板療法を単純に「薬剤を減らせばよい」と考えるのではなく、出血予防と血栓予防のバランスを患者の病態や治療時期に応じて考える必要性を示すものです。特に、心筋梗塞発症直後という血栓リスクの高い時期におけるアスピリンの役割を改めて考える重要な知見になると考えられます。

    【研究者のコメント】
    中澤学(ナカザワガク)
    所属  :近畿大学医学部内科学教室(循環器内科部門)
    職位  :主任教授
    学位  :博士(医学)
    コメント:本研究成果は、心筋梗塞を発症しステント留置を受けた患者さんの血栓予防の薬物療法の最適な方法を模索するために行われました。結果は上記および髙橋先生が述べられているとおりですが、日本においてこのような大きな研究を行い大きな成果を上げることができたことを嬉しく思います。またご参加頂いた患者様、ご協力頂いたご施設の先生方、メディカルスタッフに感謝申し上げます。

    髙橋邦彰(タカハシクニアキ)
    所属  :近畿大学医学部内科学教室(循環器内科部門)
    職位  :助教
    学位  :博士(医学)
    コメント:心筋梗塞のカテーテル治療後には、血栓を防ぐために2種類の抗血小板薬を使用しますが、その一方で出血のリスクが問題となります。本研究では、治療開始時からアスピリンを使用しないことで、このバランスを改善できるかを検証しました。その結果、出血は減少したものの虚血性イベントが増加する傾向が認められました。今回の結果は、アスピリンを単に減らせば良いのではなく、いつ安全に中止できるのかを考えることが重要であることを示しています。本研究が、心筋梗塞後のより安全で効果的な抗血小板療法を考えるための一助となることを期待しています。

    【用語解説】
    ※1 ST上昇型心筋梗塞(STEMI):心臓に栄養を送る冠動脈が血栓などによって突然閉塞することで生じる重篤な心筋梗塞。できるだけ早く、閉塞した血管を再開通させる治療が必要になる。
    ※2 経皮的冠動脈インターベンション(PCI):手首や足の付け根などの血管から細いカテーテルを挿入し、狭窄・閉塞した冠動脈をバルーンやステントを用いて拡張する治療法。
    ※3 抗血小板療法:血液中の血小板の働きを抑えることで、血栓ができるのを防ぐ治療法。
    ※4 抗血小板薬2剤併用療法(DAPT):血小板の働きを抑えて血栓を予防するため、アスピリンとP2Y12阻害薬(プラスグレルなど)の2種類の抗血小板薬を併用する治療法。

    【関連リンク】
    医学博士 医学部 医学科 教授 中澤学(ナカザワガク)
    https://www.kindai.ac.jp/meikan/2383-nakazawa-gaku.html

    医学部
    https://www.kindai.ac.jp/medicine/