報道関係者各位
    プレスリリース
    2025年11月20日 13:15
    北見工業大学、芝浦工業大学

    接触確認アプリ COCOA は、終了すべきだったのか?  ~ 世界184アプリの「終わり方」を網羅的に調査し、 稼働状況の全体像を世界で初めて可視化 ~

    北見工業大学(北海道北見市/学長 榮坂 俊雄)と芝浦工業大学(東京都江東区/学長 山田 純)は共同で、158か国・地域の184のデジタル接触確認アプリの運用状況を網羅的に調査しました。

    その結果、45.7%が既に運用を終了していることが明らかとなり、その終了理由を5つに整理しました。



    ■ポイント

    ●今回のパンデミックにおいて世界各国で導入されたデジタル接触確認アプリ(Digital Contact Tracing apps)は、日本にて導入された COCOA と同じく、その多くが既に運用を終了しています。

    ●感染抑制に効果があるのであれば継続的に運用することが合理的なはずのなか、これら各国のアプリが、いつ、どういう理由で終了したのかという点は整理されていませんでした。

    ●そこで、158か国・地域の184アプリを対象に運用状況を網羅的に調査したところ、45.7%が既に運用を終了していることが明らかとなり、その終了理由を5つに整理することができました。

    ●一部の国ではDCTアプリを終了した後に更なる感染拡大がみられたことからも、今回の成果は、今後必要となる「パンデミックを通して継続的に運用可能な DCT アプリ」の開発に向けた基盤となることが期待されます。



    ■研究の背景

    新型コロナウイルス感染症によるパンデミックにおいて、各国はデジタル接触確認(Digital Contact Tracing: DCT)アプリを導入しました。これらは新たな感染対策技術として期待されたものの、感染抑制には有効でなかったという評価もあります。一方で、国によっては、ある程度有効であったという評価も示されています。日本で導入された COCOA は患者の全数把握が終了した 2022年末に終了しましたが、もし接触確認技術が感染抑制に有効なのであれば、改良したうえで運用を継続する選択肢は無かったのでしょうか?この問いに答えようとしても、そもそも、世界各国において導入されたこれらのアプリが、どのように運用を継続し、あるいは終了したのかについて、網羅的な調査は存在しませんでした。



    ■研究の方法

    そこでまず、これまでに公開されてきた、158か国・地域に跨る184のDCTアプリを特定し、網羅性の高い台帳を構築しました。そのうえで、英語に加えて、これらのアプリを公開した各国の公用語であるフランス語、アラビア語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、スペイン語にて、各アプリの運用状況と終了理由をオンライン調査しました。また、平行して、各国の感染者数データ、ワクチン接種率データを集積し、各国の感染動向と各アプリの導入、終了のタイミングを比較可能な形に整理しました(図1)。



    ■本研究で分かったこと

    世界的に導入されたDCTアプリのうち、45.7%が既に運用を終了しており、その背景に、(1)政策の転換、(2)プライバシー上の懸念、(3)技術的制約、(4)利用者の信頼・受容、(5)感染状況・流行段階の5つの要因がありうることを整理することができました。また、DCT アプリの運用状況を各国の感染状況と比較することで、感染終息前に運用終了、感染の終息後まで継続運用、運用終了後に再流行、といった各パターンに整理することができました。さらに、Google/Appleの提供する接触確認技術を利用しないDCTアプリは、プライバシーや技術的な問題から早期に終了しやすい傾向があったことを明らかにしました。



    ■本研究の意義・示唆

    今回世界中で導入されたDCT技術は、新たな感染症対策技術として、来るべき次のパンデミックのみならず、今後のさまざまな感染症への対策技術として今後も改良が重ねられていくことが期待されます。そのためには、平時からパンデミック時に至るまで継続的に運用され、感染対策技術として効果を発揮していく必要があります。今回の研究は、その設計の更新に際した基礎となる各国の運用データ、とりわけ、運用終了と運用継続に関わる背景情報を網羅的に整理した点に大きな価値があります。

    また、今回の調査を通じて、運用状況が不明であるアプリが数多く存在することが分かりました。これは、技術の継続的な改良の制約となることからも、公的な台帳の確立や評価基盤の整備が望まれます。本研究の成果は、そのための基盤としても有意義なものです。

    本研究により、今後は、感染の鎮静化により運用を終了するのではなく、感染段階に応じて接触検知の閾値を動的に変化させたり、よりプライバシーに配慮した設計や特定企業への技術的な依存を低減していくような DCT アプリの実現に向けた研究の発展が期待されます。


    各国の感染の波とアプリ運用・終了タイミング

    各国の感染の波とアプリ運用・終了タイミング


    ■論文について

    掲載誌  : Informatics in Medicine Unlocked (Elsevier 社)

    タイトル : Cross-national survey on the termination of Digital Contact Tracing apps: Have we killed the goose that lays the golden eggs?

    URL    : https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352914825000838 DOI: https://doi.org/10.1016/j.imu.2025.101694

    原稿公開日: 2025年11月6日(オンライン公開)