プレスリリース
BSI(英国規格協会)、 「AI自動化の波が新人の仕事に与える影響」に関する 調査レポートを公開――Z世代の雇用リスクに警鐘
本プレスリリースは2025年10月9日(英国時間)に英国で配信されたプレスリリースの抄訳版です。
2025年10月9日:業務改善と規格開発を推進する英国規格協会(The British Standards Institution、以下「BSI」)が実施した新たな調査によると、人工知能(AI)への投資拡大が労働市場、とくに新入社員に与える影響に関する懸念が浮き彫りとなりました。調査では、経営陣が人材育成よりも、自動化とAI導入による人員削減を優先しているという可能性が示されました。
「AI自動化の波が新人の仕事に与える影響」に関する調査レポート
本調査は、多国籍企業の年次報告書データという大量のデータセットのAIを用いた分析と、世界7か国(オーストラリア、中国、フランス、ドイツ、日本、英国、米国)のビジネスリーダー850名超を対象としたグローバル調査を組み合わせて、経営幹部自身によるAI導入に関する見解ならびに、企業の公式声明におけるAI活用の状況について包括的な概観を提供するものです。
AI分析の結果、企業におけるAI関連の記述では、業務の自動化に関する議論が人材育成に関するものを大きく上回っていることが明らかになりました。具体的には「自動化」という用語の出現頻度は、「スキルアップ」や「リスキリング」の約7倍に達しています。これは企業がAIによるイノベーションや競争優位性強化を優先するあまり、人的資本への影響を見落としている可能性を示唆しています。
ビジネスリーダーに対する調査結果もこの見方を裏付けており、ビジネスリーダーの41%(日本:36%)はAIによって人員削減が可能になったと回答しています。自社の人材採用より先にAIソリューションの検討を行っていると回答したのは、世界全体で31%でした(日本:8%)。さらに、今後5年以内にこの傾向が強まると予想する回答者は約40%に上ります(日本:44%)。
すでに一部のビジネスリーダーは、AIツールが人間の能力に匹敵する、あるいはそれを上回ると考えています。また、回答者の約4分の1は、新入社員が行う業務の大部分をAIで代替できると回答しました(日本:6%)。39%(日本:13%)は、AIが調べものや事務処理、ブリーフィングを行うことによる業務効率化の影響で、これまで新入社員が担っていた業務が削減または廃止されたと回答し、43%(日本:23%)は今後1年以内に同様の事態を予想しています。56%は、AIツールの普及によって若手の雇用機会が減ることを懸念しており、AIツールが普及する前にキャリアをスタートできたのは幸運だったと感じています(日本:29%)。35%は自身の最初のポジションは、現在では存在しない可能性があると回答しており(日本:12%)、AIの導入は、労働力への混乱に見合う価値があると考える回答者は55%(日本:36%)でした。
BSIの最高責任者(CEO)であるSusan Taylor Martinは、次のように述べています。
「AIは世界中の企業にとって大きなチャンスです。しかし、生産性や効率性の向上を追い求める中でも、進歩を支える原動力は最終的に人であることを忘れてはなりません。当社の調査は、AIの最大活用と労働力の活性化には相反する側面があることを示しており、これは現代における重要な課題となっています。持続可能で生産性の高い雇用を確保するためには、AIツールへの投資と並行して、長期的な視点での労働力への投資が急務です」
BSIの『共に進化する:AIと自動化、これからの時代に欠かせないスキルを備えた人材育成(Evolving Together: AI, automation and building the skilled workforce of the future)』レポートは、新たにキャリアをスタートさせる人々が直面する厳しい現実を浮き彫りにしています。つまり、アルゴリズムの効率化と雇用の代替により、従来のようにスキルを磨き、業界で経験を積むための道筋が徐々に閉ざされつつあるという、不確実な未来に私たちは直面しているのです。
■中小企業のスキル開発が重要に
本調査によると、大企業は中小企業に比べてAI導入に積極的であることが示されています。中小企業の回答者の51%がAIを自社の成長に不可欠であると回答したのに対し、大企業では69%でした。この差は企業規模による影響力の違いとしても現れています。さらに、大企業の70%がAIによるコスト削減効果を実感しているのに対し、中小企業ではわずか51%にとどまっています。
中小企業はスキルや能力を身につける土台や環境を提供し、Z世代の雇用や研修の機会を広げる役割を果たすと考えられます。大企業の半数はすでに新入社員の採用を削減していますが、中小企業では30%にとどまっています。今後の見通しでは、大企業の53%がさらなる削減を見込むのに対し、中小企業では34%です。
BSIグループジャパン株式会社 代表取締役社長である漆原 将樹は、次のように述べています。
「私たちは今、インダストリー5.0の入り口に立っています。AI、ロボティクス、デジタルシステムは、効率性だけでなく人間の価値に貢献するものでなければなりません。この変革は生産性向上への大きな可能性を秘めていますが、その成功の鍵を握るのは人です。こうしたツールを真に活用するためには、あらゆるレベルでのスキル向上が不可欠であり、組織は次世代の力を引き出すことの価値を長期的な視点で捉える必要があります」
BSIの健康・安全・ウェルビーイング部門グローバル責任者であるKate Fieldは、次のように述べています。
「企業にとって、経験を積むためのさまざまな業務が合理化されたり廃止されたりすれば、社員がキャリアをスタートする時点で、またその後の成長の機会を得る前に、プロフェッショナルになろうという意欲が損なわれるリスクがあることが、調査結果から示されました。また、管理職の中には、労働力を長期的に確保することよりも短期的な生産性を優先し、後進の道を閉ざす可能性があるという傾向が見られました。この傾向が続くと、人材のパイプラインが貧弱化し、世代間の格差が拡大するだけでなく、大企業と中小企業との格差も広がる可能性があるなど、長期的な影響を及ぼす恐れがあります。一方で、中小企業はZ世代の育成を担うことで働き方の未来を形作る重要な立場にあるといえるでしょう」
レポートの全文(英語)は、以下のページよりダウンロードいただけます。
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https://page.bsigroup.com/ondemand-training-campaign-0925
■調査について
本調査は、2つの部分に分けて実施されました:
- 2025年8月14日から25日にかけて実施されたFocalDataによる調査。世界7か国(オーストラリア、中国、フランス、ドイツ、日本、イギリス、アメリカ)のビジネスリーダー850名超を対象としています。
- 本調査ではネットワークベースの手法を用い、6つのセクター(テクノロジー、製薬、消費財(FMCG)、金融サービス、運輸、建築環境)および7つの市場(英国、米国、日本、中国、欧州、オセアニア、インド)にまたがる123の多国籍企業が、年次報告書においてどのようにAIについて言及しているかを分析しました。収集・処理した報告書からAI関連の文を抽出し、主要なフレーズ(少なくとも5回以上共起するもの)を特定した後、AIの言及と少なくとも2回以上共起した10,055の固有キーワードおよびフレーズを用いてネットワークモデルを構築しました。さらに、大規模言語モデルを用いて、これら2,421件を6つの事前定義テーマ(イノベーションと競争優位性、製品と技術、ガバナンスと規制、リスクとセキュリティ、社会的責任と倫理、労働力と人的資本)に分類し、正確性を確認するため手動レビューも実施しました。分析の中心は、ネットワーク内でのキーワードとテーマの重要性を示す中心性(セントラルティ)で、他の要素との共起の頻度と強さを測定することで、企業におけるAI言説の相対的な影響力と相互関連性を明らかにしています。
■BSI(英国規格協会)とBSIグループジャパンについて
BSI(British Standards Institution:英国規格協会)は、ビジネス改善と標準化を推進する機関です。設立以来1世紀以上にわたって組織や社会にポジティブな影響をもたらし、信頼を築き、人々の暮らしを向上させてきました。現在190を超える国と地域、そして77,500社以上のお客様と取引をしながら、専門家、業界団体、消費者団体、組織、政府機関を含む15,000の強力なグローバルコミュニティと連携しています。BSIは、自動車、航空宇宙、建築環境、食品、小売、医療などの主要産業分野にわたる豊富な専門知識を活用し、お客様のパーパス達成を支援することを自社のパーパスと定めています。気候変動からデジタルトランスフォーメーションにおける信頼の構築まで、あらゆる重要社会課題に取り組むために、BSIはさまざまな組織と手を取り合うことによって、より良い社会と持続可能な世界の実現を加速し、組織が自信を持って成長できるよう支援しています。
BSIグループジャパンは、1999年に設立されたBSIの日本法人です。マネジメントシステム、情報セキュリティサービス、医療機器の認証サービス、製品試験・製品認証サービスおよび研修サービスの提供を主業務とし、また規格開発のサポートを含め規格に関する幅広いサービスを提供しています。