プレスリリース
【保存版】災害で緑内障の目薬をなくしたら――まず命を守る。そのあとで治療は取り戻せます

大きな地震や豪雨では、着の身着のままで避難することがあります。
財布も、お薬手帳も、毎日使っている緑内障の目薬も自宅に置いたまま。
少し落ち着いてから、
「昨日から目薬をさしていない」
「取りに戻った方がいいのでは」
「このまま見えなくなったらどうしよう」
と、不安になる方もいるでしょう。
まず眼科医として、一番お伝えしたいことがあります。
災害時は、目薬より命が優先です。
危険な場所へ目薬を取りに戻らないでください。
普段治療している慢性緑内障の多くは、数回点眼できなかったからといって、その瞬間に急激に失明する病気ではありません。
まず逃げる。安全を確保する。そのあとで治療を取り戻す。
この記事では、日本緑内障学会が東日本大震災後に作成した災害時資料[1]をもとに、2026年現在使える薬剤情報や医療DXの仕組みを加えてまとめます。
1.目薬を持たずに避難したら
日本緑内障学会の災害時資料では、慢性緑内障について、点眼薬を失ってもまず慌てず、入手できる状況になったら治療を再開する、という考え方が示されています[1]。
ただし、
「しばらく点眼しなくてもよい」
「自己判断で中止してよい」
という意味ではありません。
順番は、
命を守る
↓
安全を確保する
↓
点眼薬を確認する
↓
入手できたら再開する
です。
数回点眼できなかったことを心配して、危険な場所へ戻る必要はありません。
一方、点眼できない期間が長くなった場合や、進行した緑内障といわれている方は、医療につながれるようになったら早めに相談してください。
慌てない。でも、そのままにしない。
これが基本です。
2.薬の名前が分からないときは
災害時に困るのが、
「いつもの目薬は分かるけれど、名前が分からない」
という状況です。
「青いキャップだった」
「夜に1回だった」
だけでは薬を特定できないことがあります。
東日本大震災では、日本緑内障学会が容器写真から点眼薬を確認できる一覧を作成しました。
その後、薬剤は大きく増えたため、現在は日本眼科用剤協会が最新の点眼薬写真一覧を更新しています。日本緑内障学会も、現在はこちらを参照するよう案内しています[1,2]。
ただし、この一覧は患者さんが写真だけで薬を自己判断するためのものではありません。
点眼容器やスマートフォンに残っている写真を医師・薬剤師に見せ、薬剤を確認する際の手掛かりとして使ってください。
3.容器もお薬手帳もなくしたら
2026年現在は、2011年にはなかった方法もあります。
紙のお薬手帳がなくても、
- 電子版お薬手帳
- マイナポータル
- 電子処方せんに登録された情報
などから薬剤情報を確認できる場合があります。
さらに災害時には、オンライン資格確認の「災害時医療情報閲覧機能」が使われることがあります。
対象となる医療機関・薬局では、マイナンバーカードを持っていなくても、氏名・生年月日・住所などから本人を確認し、本人の同意のもとで薬剤情報を確認できる場合があります[5]。
すべての施設で常に使える仕組みではありませんが、
「薬の名前が分からないから、もう治療を再開できない」
とは限りません。
4.自分の目薬が分からないときの順番
まずは、
① 点眼容器・薬袋を見る ② お薬手帳を確認する ③ スマートフォンの写真や電子版お薬手帳、マイナポータルを見る ④ 医師・薬剤師に相談する ⑤ 必要に応じて点眼薬写真一覧で確認する
この順で十分です。
自分一人で薬を特定する必要はありません。
「緑内障で毎日使っていた目薬をなくしました」
と伝えてください。
容器の色、点眼回数、朝か夜か、片眼か両眼か、といった情報も手掛かりになります。
5.似た目薬を自己判断で使わない
避難先では、いつもの点眼薬と同じ商品が手に入らないこともあります。
同じ成分の別製品や後発医薬品が使える場合はありますが、
「緑内障の目薬なら何でもよい」わけではありません。
例えば一部のβ遮断薬は、気管支喘息、洞性徐脈、房室ブロック、コントロール不十分な心不全などでは使えない場合があります[3]。
他人の目薬を借りたり、「似た容器だから」と自己判断で使ったりせず、医師または薬剤師に相談してください。
6.「緑内障なら急がなくてもよい」には例外があります
ここは非常に重要です。
これまでの話は、主に普段から点眼治療をしている慢性緑内障についてです。
急性閉塞隅角発作
突然、
- 強い目の痛み
- 急なかすみ、視力低下
- 光の周囲に虹のような輪が見える
- 強い充血
- 頭痛
- 吐き気、嘔吐
などが起きた場合は、急性閉塞隅角発作の可能性があります[1,4]。
これは緊急です。
災害時でも、
「急に目が痛くなり、見えにくくなった」
と救護所や医療者に伝えてください。
7.緑内障手術を受けた目も注意
特に線維柱帯切除術などの濾過手術を受けた目では、長期間経過したあとでも濾過胞感染から眼内炎を起こすことがあります[3]。
手術をした目に、
- 強い充血
- 目やに
- 急なかすみ
- 視力低下
- 目の痛み
が出た場合は、
「緑内障手術を受けた目です」
と必ず医療者に伝えてください。
単なる点眼中断とは別に考える必要があります。
8.「緑内障だから他の薬が飲めない」とは限りません
風邪薬や抗アレルギー薬、睡眠薬などには「緑内障の方は注意」と書かれていることがあります。
しかし、すべての緑内障患者さんが一律に使えないわけではありません。
特に注意が必要なのは、一部の狭隅角・閉塞隅角眼で、薬剤によって急性発作を誘発する可能性がある場合です[4]。
災害時に必要な薬を自己判断で中止せず、
「緑内障で治療中です」
と医師・薬剤師に伝えてください。
目だけでなく、全身を守ることも大切です。
9.平時に5分でできる「緑内障の防災」
災害は、自宅にいるときに起きるとは限りません。
普段から、次の3つをしておくと安心です。
点眼薬をスマートフォンで撮る
容器だけでなく、商品名、濃度、薬袋、1日の点眼回数まで分かるように撮影しておきます。
電子版の薬剤情報も持つ
紙のお薬手帳に加えて、電子版お薬手帳やマイナポータルも利用しておけば、災害時のバックアップになります。
家族にも伝えておく
何という薬を、どちらの目に、1日何回使っているのか。
家族が知っているだけでも、大きな助けになります。
最後に――まず命を守ってください
緑内障の患者さんは普段、
「目薬は毎日忘れないでください」
と言われています。
だからこそ、災害で目薬を失うと、とても不安になるでしょう。
でも、その瞬間だけは順番が違います。
まず逃げる。
目薬を取りに戻らない。
まず命を守る。
安全が確保できたら、そこから治療を取り戻していけば大丈夫です。
東日本大震災当時と比べ、今は点眼薬の写真一覧、電子版お薬手帳、マイナポータル、電子処方せん、災害時の医療情報閲覧機能など、薬剤情報を取り戻す方法も増えています。
数回点眼できなかったことを、自分で責める必要はありません。
慌てない。
でも、そのままにしない。
そして何より、
まず命を守る。
この記事が、緑内障の患者さんやご家族に「災害時の保存版」として届くことを願っています。
参考資料

医療法人社団久視会 いわみ眼科
理事長:岩見 久司(医学博士・日本眼科学会認定 眼科専門医)
所在地:兵庫県芦屋市公光町11-2 CH158 BLDG HANSHIN ASHIYA 2F
公式サイト:https://iwami-eyeclinic.com/
TEL:0797-35-0183