報道関係者各位
    プレスリリース
    2026年6月3日 16:00
    学校法人近畿大学

    希少魚である「スミツキハナダイ」が性転換することを発見 魚類の繁殖様式や生態の理解をすすめる研究成果

    図1 スミツキハナダイの性転換(上段は外部形態、下段は生殖腺組織)
    図1 スミツキハナダイの性転換(上段は外部形態、下段は生殖腺組織)

    近畿大学大学院農学研究科(奈良県奈良市)環境管理学専攻博士前期課程2年 野村玲偉(研究当時、現:山口県水産研究センター)、同博士前期課程2年 上地健琉(研究当時、現:マリノリサーチ株式会社)、同准教授 宮崎佑介、近畿大学農学部水産学科(奈良県奈良市)教授 小林靖尚、一般財団法人沖縄美ら島財団(沖縄県本部町)主任研究員 宮本圭、神奈川県立生命の星・地球博物館(神奈川県小田原市)学芸員 和田英敏の研究グループは、採集が困難で繁殖様式が不明だったハナダイ科のスミツキハナダイ属の魚類が、メスからオスへ性転換することを明らかにしました。一部の魚類では、成長に伴って性別が変化する性転換を行うことが知られていますが、詳細な研究例は食用として日常的に流通している種に偏っており、スミツキハナダイ属のように深い海域に生息し、食用では流通していない魚種の研究は、ほとんどありませんでした。本研究では、スミツキハナダイ属の外的特徴の雌雄差も明らかにしており、今後、魚類分類学や魚類の繁殖様式の理解を前進させることが期待されます。
    本件に関する論文が、令和8年(2026年)4月30日(木)に、日本魚類学会の国際誌である"Ichthyological Research(イクチオロジカル リサーチ)"にオンライン掲載されました。

    【本件のポイント】
    ●さまざまな海域での船釣りによって、希少魚であるハナダイ科スミツキハナダイ属の採集に成功し、メスからオスへの雌性先熟型の性転換を初めて確認
    ●スミツキハナダイとキイハナダイについて、色・鰭の長さ・体長などの外的特徴が雌雄で異なることを確認
    ●本研究は、市場に流通しづらい魚種の繁殖様式に関する理解を深め、今後魚類分類学などの分野への貢献が期待される成果

    【本件の背景】
    魚類では、成長に伴って性別が変化する「性転換」を行う種があり、特にハタ科・ハナダイ科・ベラ科の一部では、メスとして成熟した後にオスに変化して繁殖する、雌性先熟型の性転換を行うことが知られています。これらの魚類は、体が小さいうちはメスとして繁殖に参加し、大きく成長できればオスへ性転換して周囲のメスと配偶できるといったメリットがあります。子孫を残すうえで優位な戦略の一つとして性転換できるように進化したと考えられていますが、魚類の性転換の研究例は食用として日常的に流通している水産有用種や浅海性種に偏っており、沿岸域の深場に生息する、市場に流通しづらい低利用種については知見が不足していました。
    低利用種の一種である、ハナダイ科に属するスミツキハナダイ属は、水深100~300mの深い岩礁周辺の砂底に生息しています。日本近海ではスミツキハナダイとキイハナダイの2種が知られており、いずれも美しい見た目から観賞魚としての価値も高い魚種です。このうちスミツキハナダイでは、古くからオスとメスで体色が異なることが報告されていました。しかし、スミツキハナダイ属は採集事例が少なく、体色の違いが本当に雌雄差によるものなのか、あるいは種間の差なのかについては、これまで科学的な検証が不十分でした。一方、同属のキイハナダイは国内での報告例がわずか2例とさらに少ない記録にとどまっていたため、その生態や繁殖様式はほとんど明らかになっていませんでした。

    【本件の内容】
    研究グループは、スミツキハナダイおよびキイハナダイについて観察・解析を行うため、相模湾、紀伊半島、沖縄島周辺海域などで船釣りを行い、多くのスミツキハナダイ・キイハナダイの収集に成功しました。収集した標本について、外部形態、生殖腺組織、およびDNA解析を行い、外部形態の性差と性転換について検証しました。この結果、どちらの種も色・鱗・斑点・鰭の長さ・体長といった見た目が、オスとメスで明瞭に異なることを明らかにしました。さらにスミツキハナダイでは、オスとメスの中間的な形態で、卵巣組織と精巣組織を併せ持つ両性生殖腺の個体が確認され、本種がメスからオスへと雌性先熟型の性転換を行うことが示されました。本研究は、スミツキハナダイ属において雌性先熟型の性転換を示した初めての報告です。
    本研究成果は、これまで知られていなかったハナダイ科魚類の繁殖様式の理解を進めることで、魚類分類学および魚類生態学への貢献が期待されます。

    【論文掲載】
    掲載誌:Ichthyological Research(インパクトファクター:1.0@2024)
    論文名:Sexual dimorphism and protogeny in two species of
        Selenanthias (Serranidae: Anthiadinae) collected from Japanese waters
        (スミツキハナダイとキイハナダイにおける性的二型と雌性先熟)
    著者 :野村玲偉1,2*、上地健琉1,3、小林靖尚1,4、宮本圭5、和田英敏6、宮崎佑介1,4※
        *筆頭著者 ※責任著者
    所属 :1 近畿大学大学院農学研究科、2 山口県水産研究センター、3 マリノリサーチ株式会社
        4 近畿大学農学部、5 一般財団法人沖縄美ら島財団、6 神奈川県立生命の星・地球博物館
    URL :https://link.springer.com/article/10.1007/s10228-026-01070-1
    DOI :10.1007/s10228-026-01070-1

    【本件の詳細】
    研究グループは、中有光層※1 および稀有光層※2 に生息するハナダイ科スミツキハナダイ属の魚類を対象に、相模湾、紀伊半島、沖縄島周辺海域などで船釣りによる採集を行いました。採集した本属魚類について、外部形態および生殖腺組織の観察、ミトコンドリアDNA※3 のCOI領域※4 に基づく系統解析を行いました。
    その結果、スミツキハナダイのオスは臀鰭に黒色斑、頭部に黄色斑、体表に真珠色の鱗を持つ一方、メスは前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)と主鰓蓋骨(しゅさいがいこつ)が白く縁どられており、明瞭な色彩の差が認められました。また、体長と腹鰭・臀鰭・尾鰭の糸状に伸長した軟条(なんじょう)は、オスの方が長いことも示されました。これらは、外部形態の性的二型※5 と考えられます。一方、オスとメスの中間的な体色や形態を示す個体も複数の標本が得られました(図1)。
    次に生殖腺組織を詳しく調べたところ、外部形態のオス型には精巣が観察され、外部形態のメス型には卵巣が観察されました。オスとメスの中間的な体色や形態を示した個体のうち、4個体においては卵巣組織と精巣組織が同時に存在する両性生殖腺が観察されました(図1)。
    キイハナダイについても同様のアプローチにより、スミツキハナダイと共通する雌雄差の存在が明らかになりました(図2)。キイハナダイは供試個体数の不足から両性生殖腺を有する個体は観察されなかったものの、スミツキハナダイと同様に雌性先熟の性転換を行うことが示唆されました。
    さらにスミツキハナダイの生殖腺発達や生殖腺指数(GSI)※6 の解析から、本種は冬から初夏(12月~6月頃)にかけて産卵し、その期間中あるいは終了時に性転換が起こる可能性が示されました。
    また、遺伝子解析では、外部形態のオス型とメス型がそれぞれ同一種内に包含されることが示され、体色や形態の違いが「別種」ではなく「雌雄差」であることが裏付けられました(図3)。また、オスとメスの中間的な体色や形態を示した個体は、オスとメスの中間の大きさであった結果を踏まえると、スミツキハナダイは雌性先熟型の性転換をすることが裏付けられたといえます。本研究は、スミツキハナダイ属において雌性先熟型の性転換を示した初めての報告となります。
    本研究の成果は、深場に適応したハナダイ科魚類における配偶システムの理解を大きく前進させるものであり、今後の魚類分類学や魚類の配偶システム理解の発展への貢献が期待されます。

    図2 キイハナダイの性的二型(上段は外部形態、下段は生殖腺組織)
    図2 キイハナダイの性的二型(上段は外部形態、下段は生殖腺組織)
    図3 系統解析結果(スミツキハナダイとキイハナダイはそれぞれ別のクラスターに分かれ、各種の雌雄は入れ子状に配置された)
    図3 系統解析結果(スミツキハナダイとキイハナダイはそれぞれ別のクラスターに分かれ、各種の雌雄は入れ子状に配置された)

    【研究者のコメント】
    宮崎佑介(ミヤザキユウスケ)
    所属  :近畿大学農学部環境管理学科、近畿大学大学院農学研究科
    職位  :准教授
    学位  :博士(農学)
    コメント:これまで希少魚と考えられてきたスミツキハナダイでしたが、近年の若手魚類学者を中心として流行している中有光層や稀有光層という深場の小物釣りによって、まとまった数の標本が得られることがわかってきました。本研究では、学生時代の野村さんによる丁寧な標本観察と複数の共同研究者のサポートによって、統合的なアプローチが実現できました。加えて、一年間を通して毎月の定点における船釣り調査も実施したことで、性転換中の標本を入手することができ、産卵期の推定にも繋げることができました。稀種キイハナダイは未だになかなか入手困難ですが、両種ともに美麗で観賞魚としての価値も高く(小型魚ながら食べても美味しいのですが)、水族館で安定して飼育できるようになることも期待しています。

    【用語解説】
    ※1 中有光層:水中に届く光線の波長・光量や動物相から定義され、清澄な海域においては海面から約40~130mの水深帯を指す。
    ※2 稀有光層:水中に届く光はわずかな青色光のみで、清澄な海域においては海面から約130~300mの水深帯を指す。
    ※3 ミトコンドリアDNA:細胞内小器官のひとつである、ミトコンドリア内に存在するDNA。母性遺伝で変異の速度が早いことから、生物の進化を研究する際に使用される。
    ※4 COI領域:動物などの生物種を判別するために最も広く利用されている遺伝子領域。
    ※5 性的二型:同一の生物種において、生殖器以外に雌雄の間に見られる形態や大きさ、体色などの明確な違い。
    ※6 生殖腺指数(GSI):魚類や貝類などにおいて、体重に対する生殖腺(卵巣や精巣)の重量の割合。成熟状態を評価する指標。

    【関連リンク】
    農学部 環境管理学科 准教授 宮崎佑介(ミヤザキユウスケ)
    https://www.kindai.ac.jp/meikan/2734-miyazaki-yuusuke.html
    農学部 水産学科 教授 小林靖尚(コバヤシヤスヒサ)
    https://www.kindai.ac.jp/meikan/1436-kobayashi-yasuhisa.html

    農学部
    https://www.kindai.ac.jp/agriculture/