報道関係者各位
    プレスリリース
    2026年6月9日 14:00
    学校法人近畿大学

    皮膚科診療におけるChatGPT-5の使用が研修医の診断精度を向上 診断の代替ではなく、医師のパートナーとしてのAI活用を提言

    ChatGPT-5による鑑別診断支援が皮膚科の若手研修医の診断精度に与える影響と専門医との比較
    ChatGPT-5による鑑別診断支援が皮膚科の若手研修医の診断精度に与える影響と専門医との比較

    近畿大学医学部(大阪府堺市)皮膚科学教室 主任教授 大塚篤司と非常勤医師 山村優人らの研究グループは、生成AIの一つであるChatGPT-5が皮膚科の初期診療における診断にどの程度有用かを、若手研修医を対象に検証しました。近年、皮膚科領域では深層学習による画像診断AIが専門医レベルと同等の精度を達成しつつありますが、テキスト情報をもとに回答するChatGPTなどの大規模言語モデル※1 の臨床的有用性については、まだ十分に検討されていませんでした。本研究では、ChatGPT-5が皮膚科の初期診療において、若手研修医の診断精度を向上しうる現実的なツールであることを明らかにしました。同時に、ChatGPT-5を実際の臨床現場で使用する際には医師の批判的評価も必要であり、診断を支援するパートナーとしての活用の可能性を示しました。
    本件に関する論文が、令和8年(2026年)5月11日(月)に、Medical Journals Sweden社が発行する、皮膚科および性病学分野の臨床・基礎研究を専門とする学術雑誌"Acta Dermato-Venereologica(アクタ・ダーマト・ヴェネレオロジカ)誌"に掲載されました。

    【本件のポイント】
    ●大規模言語モデルであるChatGPT-5を用いた診断支援が、皮膚科の若手研修医の診断精度を有意に向上させることを確認
    ●ChatGPT-5が正しい診断を提示した症例では診断精度が向上、誤った候補を提示した場合には低下することが判明
    ●ChatGPT-5は臨床判断を代替するものではなく、診断推論を支援・強化する「認知的パートナー」として位置づけることを提言

    【本件の背景】
    AIの進歩により、皮膚科における診断支援研究が大幅に進展しています。特に、深層学習に基づく画像解析は、さまざまな皮膚疾患において専門医レベルの精度を達成しており、経験の浅い臨床医の診断精度を向上させることが示されています。近年では、ChatGPT-5などの大規模言語モデルのAIが、テキストによる症例記述から臨床的に関連のある診断を提示可能と注目されています。
    研究グループは、これまでにChatGPT-4oを用いて皮膚科症例情報を学習させた場合、専門医と同等の診断精度を示すことを報告しました。しかし、実際の臨床現場で若手研修医がAIの提案をどう扱うか、また誤った提案が診断判断を誤らせるリスクについては十分な知見がありませんでした。本研究はこの課題に取り組むため、より新しいモデルであるChatGPT-5を用いて検証を行いました。

    【論文掲載】
    掲載誌:Acta Dermato-Venereologica(インパクトファクター:3.7@2026)
    論文名:Impact of Large Language Model-Assisted Differential Diagnosis on
        Clinical Decision-Making in Dermatology: A Feasibility Study Using ChatGPT-5
    著者 :山村優人、藤井一恭*、中嶋千紗、大塚篤司 *責任著者
    所属 :近畿大学医学部皮膚科学教室
    URL :https://medicaljournalssweden.se/actadv/article/view/46099
    DOI :10.2340/actadv.v106.adv-2025-0180

    【本件の詳細】
    本研究では、大規模言語モデルであるChatGPT-5が皮膚科診療における鑑別診断に与える影響を、皮膚科専門医資格を未取得の若手研修医23名を対象に検証しました。査読付き皮膚科専門誌『皮膚の科学』から選定した確定診断済みの30症例(腫瘍性15例、炎症性15例)を用いて、参加者は各症例についてまず「ChatGPT-5なし」で独立に診断を行いました。その後、ChatGPT-5が生成した3つの鑑別診断を参照しながら再評価しました。ChatGPT-5には初診時に入手可能な情報(患者背景・臨床所見)のみを提供。その結果、以下の点が明らかとなりました。
    まず、診断精度の観点においては、ChatGPT-5は56.7%の症例において、上位3つの鑑別診断※2 の中に正解を含んでいました。若手研修医は、ChatGPT-5の提案を参考にすることで、診断精度の中央値が43.3%から50.0%へと統計学的に有意に向上しており、ChatGPT-5の活用が診断推論の補助として一定の効果を有することが示されました。なお、参考値として、皮膚科専門医の診断精度中央値は66.7%でした。
    一方で、ChatGPT-5の提案内容の質が、研修医の診断結果に大きく影響することも明らかとなりました。全690回答(30症例×23名)を解析した結果、ChatGPT-5使用前後で44.9%の診断が変更され、そのうち86.1%はChatGPT-5が提示した鑑別診断候補を採用していました。
    さらに詳細に検討すると、ChatGPT-5が提示した候補に正解が含まれていた症例(17例)では、診断精度の中央値は64.7%から82.4%へと大きく向上していました。一方、ChatGPT-5が提示した候補に正解が含まれていなかった症例(13例)では、診断精度の中央値は15.4%から7.7%に低下していました。
    これらの結果は、ChatGPT-5が正解を含む適切な候補を提示した場合には診断精度の向上に寄与する一方で、正解を含まない不適切な候補を提示した場合には研修医の判断が影響を受け、誤診の増加につながる可能性があることを示しています。つまり、ChatGPT-5の出力の質が臨床判断に直結するリスクが存在することが明確に示されました。
    本研究の意義として、ChatGPT-5が皮膚科の初期診療において若手研修医の診断推論を支援しうる現実的なツールであることが示された点が挙げられます。その一方で、ChatGPT-5の出力を無批判に受け入れることの危険性も明らかとなり、人間による批判的吟味と臨床判断の重要性が改めて強調されました。
    研究グループは、ChatGPT-5は臨床判断を置き換えるものではなく、医師の診断推論を支援・強化する「認知的パートナー(cognitive partner)」として位置づけることを提言しました。本研究成果は今後、AI支援が最も効果的に機能する条件の解明や、皮膚科教育への応用につながることが期待されます。

    【研究者のコメント】
    大塚篤司(オオツカアツシ)
    所属  :近畿大学医学部皮膚科学教室
    職位  :主任教授
    学位  :博士(医学)
    コメント:本研究は、生成AIが皮膚科の若手医師の診断推論を支援する有効なツールとなり得る一方、AIが誤った候補を提示した際には診断を誤らせるリスクがあることを実証しました。AIの出力を鵜呑みにせず、批判的に吟味する臨床判断こそが鍵となります。生成AIは医師に取って代わる存在ではなく、共に診断を考える「認知的パートナー」です。本知見を皮膚科教育とAIの安全な臨床活用ガイドラインの整備に活かしていきたいと考えております。

    山村優人(ヤマムラユウト)
    所属  :近畿大学医学部皮膚科学教室
    職位  :専攻医
    学位  :学士(医学)
    コメント:本研究では、生成AIであるChatGPT-5が、皮膚科診療における鑑別診断支援にどのような影響を与えるかを検討しました。ChatGPT-5は診断精度向上に寄与する可能性を示した一方で、不適切な候補提示が診断判断へ影響するリスクも明らかとなりました。AIを過信するのではなく、医師による批判的吟味を前提とした「診断支援ツール」として活用することが重要だと考えています。

    【用語解説】
    ※1 大規模言語モデル(Large Language Model:LLM):膨大なテキストデータを学習し、自然言語での応答を生成するAIモデル。ChatGPTなどが代表例。
    ※2 鑑別診断:症状や所見から考えられる複数の疾患候補を列挙し、最終診断を絞り込む臨床推論プロセス。

    【関連リンク】
    医学部 医学科 教授 大塚篤司(オオツカアツシ)
    https://www.kindai.ac.jp/meikan/2634-otsuka-atsushi.html
    医学部 医学科 特命教授 藤井一恭(フジイカズヤス)
    https://www.kindai.ac.jp/meikan/3183-fujii-kazuyasu.html
    医学部 医学科 特任准教授 中嶋千紗(ナカシマチサ)
    https://www.kindai.ac.jp/meikan/2692-nakashima-chisa.html

    医学部
    https://www.kindai.ac.jp/medicine/