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    プレスリリース
    2026年8月21日 11:00
    株式会社property technologies

    住まいを選び直す自由 ー住宅流動性と人生設計の経済学ー (第5回:住宅流動性と人生の自由──仕事・家族・老後を縛るロックイン効果)|PropTech-Lab

    清水 千弘・PropTech-Lab 所長
    一橋大学大学院ソーシャルデータサイエンス研究科教授、社会科学高等研究院都市空間不動産解析研究センター・センター長。1994年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程中退。東京大学博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て、現職に至る。

    前回(第4回)を受けて:流動性は「人生の自由度」の指標である

    第2回では、AI と社会の関係を一般論として論じ、タスク代替の経済学と人間と機械の分業を提示した。第3回では、その枠組みを住宅市場に適用し、日本の住宅市場が動かないのは制度の総体としての結果である、という構造的診断を行った。第4回では、取引の重さが過去の合理性の残滓として制度に埋め込まれている、という制度史的診断を加えた。

    本連載(第5回)ではこれらの分析を踏まえて、視点を一段変える。住宅市場の流動性は、住宅市場の中だけでなく、その外に位置する人生の自由度の指標として読み直されるべきである。仕事を変える自由、家族の形を変える自由、老後を選び直す自由、これらすべてが、住宅市場の流動性によって支えられているか、あるいは制約されている。住宅流動性は、社会が人生の変化をどれだけ許容するかの指標である。これが本連載の中心命題である。

    家を着替える、という発想

    服を着替えるように、家を着替える。日本人の多くにとって、この発想は奇妙に聞こえるかもしれない。家は何度も買い替えるものではなく、一度建てたら、あるいは一度買ったら、そこに長く住むもの、そういう感覚が私たちの中に深く根を下ろしている。

    ところがアメリカやヨーロッパの一部では、家は本当に「着替える」ものなのだ。新婚時代は街中の小さなコンドミニアム、子どもが生まれたら郊外の戸建て、子どもが独立したら都市部のタウンハウス、引退後は気候の温暖な土地のゴルフコースの近く。人生のステージごとに、住まいの形を選び直していく。

    これは単なる消費行動の差ではない。人生がどのように設計されているか、人生の変化を社会がどう支えているかの差である。本連載では、住宅流動性が低いことが、人々の人生にどのような制約をもたらしているのか、そして住み替えのハードルが下がることで人生の何が変わるのかを考えていきたい

    ある女性の人生:三つのシナリオ

    ひとつの思考実験から始めよう。35歳の独身女性を想像してほしい。都心の企業に勤め、年収は800万円、貯蓄は1500万円ほど。両親は地方に住み、健在。彼女は今、東京の賃貸マンションに住んでいる。

    シナリオA(現実の日本):彼女は迷っている。賃貸を続けるか、思い切って都心のマンションを買うか。買うなら35年ローン。途中で結婚したら?転勤になったら?親の介護が必要になったら?売る時に値下がりしていたら?考えるべきリスクが多すぎて、決断できない。結局、賃貸を続けることにする。50歳になっても、60歳になっても、まだ「いつかは家を買おう」と思いながら、賃貸暮らしが続く。

    シナリオB(住み替えが軽い世界):彼女は今の年齢にあった都心の1LDKを買う。気に入らなくなったり、人生が変わったりしたら、半年くらいで売却して住み替えられる。住宅ローンも住み替えに対応した商品で、借り換えも自由。 AI が彼女のライフプランと予算と希望条件を統合し、最適な物件候補を提示する。実際、彼女は3年後に結婚し、夫と一緒に2LDKに買い替える。子どもが生まれたら郊外の戸建てに移り、子どもが独立したら、また都心に戻る。 住まいは人生の伴走者であって、人生を縛るものではない。

    シナリオC(家を「持たない」選択):彼女は家を所有することそのものをやめる。サブスクリプション型の高品質賃貸を利用し、ライフスタイルに応じて全国・世界中の住まいを月単位で渡り歩く。資産は株式や投資信託で運用し、住まいは消費財として割り切る。所有のリスクを負わず、流動性の高い資産で老後に備える。

    どれが正解、ということはない。重要なのは、現代の日本ではシナリオAしか現実的な選択肢として開かれていないということだ。シナリオBは制度と技術の制約で困難、シナリオCはまだ社会的インフラが追いついていない。
    彼女の人生の選択肢は、住宅市場の構造によって、知らないうちに狭められている

    仕事を変える自由は、住まいを変える自由でもある

    住み替えが軽くなることで一番大きく変わるのは、たぶん仕事の選び方だろう。

    地方の魅力的なベンチャー企業から声がかかったとする。年収は今と同等、仕事内容は面白い、社風も合いそうだ。ただし勤務地は北海道。さて、転職するか。日本の現状では、ここで多くの人が立ち止まる。家族がいれば子どもの転校、配偶者の仕事、住宅ローン残高、地元のコミュニティとの関係。独身でも、東京で買ったマンションをどうするか、引越し費用、新天地での住居選びの不安。「面白そうだけど、現実的には難しいな」と転職を諦める人が、毎年どれだけいるだろうか。

    経済学者のあいだでは、住宅市場の流動性の低さが労働市場の流動性も縛ることが、近年とくに重視されている。 Ferreira, Gyourko & Tracy(2010, 2012)※は、住宅価格が下落した地域では、住民が家を売れなくなり、好条件の仕事があっても他州に移れなくなる現象を実証した。Bernstein & Struyven(2022)※はオランダのデータで同様のロックイン効果を確認している。住宅市場と労働市場、住宅市場と家族形成は、深く絡み合っている。

    住宅ロックインが社会にもたらす損失

    労働市場のミスマッチ:地理的移動の制約により、人と仕事のマッチングが最適化されない。Ferreira et al. (2010) ※は、住宅価格下落地域での移動率低下が労働市場効率を阻害することを示唆。
    都市集中の固定化:地方への人材還流が起きないため、東京一極集中が温存される。
    機会費用の蓄積:個々人にとっての「諦めた選択肢」が、社会全体の生産性損失として蓄積される。
    家族形成への影響:結婚、出産、介護といったライフイベントが、住まいの制約で先送り・諦めにつながる。

    住宅流動性は、住宅市場の指標ではない。社会全体の機会の指標である。

    逆に言えば、住み替えが軽くなれば、仕事を変える自由が広がる。地方の企業に転職するハードルが下がり、東京一極集中が緩和されるかもしれない。リモートワークの普及はこの方向にすでに少し効いているが、住居を物理的に動かす自由が広がれば、効果はさらに大きくなる。


    住まいの流動性の低さは、私たちの労働市場だけでなく、「結婚・子育て・介護」といったライフイベントや、「老後の選択肢」にも大きな影響を与えています。
    「家は一生もの」という常識が段階的に崩れゆく中、私たちが直面する新しい住まいと人生の形について、公式サイトのコラム本編でさらに深く掘り下げます。

    【続きはプロパティ・テクノロジーズ 公式サイトで読む 】
    https://pptc.co.jp/column/20260821_1100/


    【参考・引用文献】

    Ferreira, F., Gyourko, J., & Tracy, J. (2010, 2012). Housing busts and household mobility. JUE / NY Fed Economic Policy Review.

    Bernstein, A., & Struyven, D. (2022). Housing lock: Dutch evidence on the impact of negative home equity on household mobility. AEJ: Economic Policy.

    『PropTech-Lab(プロップテック・ラボ)』について

    『PropTech-Lab』は、不動産市場に新たな価値をもたらし、人々が住まいを選ぶ際の新たな基準や簡便さ、価値観を醸成し、提供することを目指します。市場のニーズに応え、価格高騰のスパイラルを抑制し、より多くの人々が質の高い住宅を手に入れられるよう努めてまいります。

    『PropTech-Lab』 所長 清水 千弘 について

    一橋大学大学院ソーシャルデータサイエンス研究科教授、社会科学高等研究院都市空間不動産解析研究センター・センター長。1994年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程中退。東京大学博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授等を歴任。
    2022年1月より、当社グループ参画。社外取締役を経て、2024年7月より、当社研究・開発組織『PropTech-Lab』所長に就任。

    <専門分野> 指数理論 / 応用計量経済学 /多変量解析
    <専門分野> 指数理論 / 応用計量経済学 /多変量解析

    株式会社property technologies(プロパティ・テクノロジーズ)について

    「UNLOCK YOUR POSSIBILITIES. ~テクノロジーで人生の可能性を解き放つ~」というミッションを掲げています。年間36,000件超の不動産価格査定実績やグループ累計約15,000戸の不動産販売で培ったリアルな取引データ・ノウハウを背景に、「リアル(住まい)×テクノロジー」で実現する「誰もが」「いつでも」「何度でも」「気軽に」住み替えることができる未来に向け、手軽でお客様にとって利便性の高い不動産取引を提供しています。

    <会社概要>
    会社名:株式会社property technologies
    代表者:代表取締役社長 濱中 雄大
    URL:https://pptc.co.jp/
    本社:東京都渋谷区本町3-12-1 住友不動産西新宿ビル6号館12階
    設立:2020年11月16日
    上場:東京証券取引所グロース市場(5527)