プレスリリース
「トランプ関税」により、 国内企業のIT投資計画に見直しの機運が高まる コスト管理の厳格化と調達先の国内回帰が、IT戦略上の優先課題に ― ITRが「米国の関税政策にかかるIT動向調査」の結果を発表 ―
株式会社アイ・ティ・アール(所在地:東京都新宿区、代表取締役:三浦 元裕、以下「ITR」)は、米国の相互関税政策(通称:トランプ関税)の発表を受けて、2025年4月に実施したIT動向調査の結果を発表いたします。
本調査は、国内企業でIT戦略の策定やIT実務に関わる課長以上の役職者を対象に4月22日から24日にかけて実施したもので、1,271件の有効回答を得ました。
■自社の業績が「悪化すると思う」と回答した割合は70%超
本調査では、まず、トランプ米政権の関税政策が自社の業績にどのような影響を及ぼすかについて、率直な意見を問いました。その結果、「大幅に悪化すると思う」ないし「やや悪化すると思う」と回答した企業は、合計で71%に上りました。とりわけ自動車製造業は影響を深刻に受け止めており、業績悪化を懸念する企業は90%に達しています(参考資料1)。
<参考資料1>トランプ関税による自社の業績に対する影響
また、自社のIT/DX戦略の進展にもたらす影響についても尋ねたところ、「大きく減速させる」ないし「やや減速させる」と回答した人が半数を超える60%に上り、関税政策が国内企業の業績だけでなく、IT戦略の進展にも影を落とすと考える企業が多いことが明らかになりました。
■2026年度のIT予算とIT中期計画を見直す企業は半数以上
トランプ関税に伴うIT投資計画の見直し状況を調査した結果、トランプ関税が国内企業のIT投資に影響を及ぼしている兆しが確認されました(参考資料2)。2025年度のIT予算については、「すでに見直しを実施済みである」企業(4%)に加え、「現在見直しを検討中である」が14%、「今後見直す可能性がある」が26%となり、合計で44%の企業が見直しの意向をもつことがわかりました。
2026年度のIT予算については、「現在見直しを検討中である」が17%、「今後見直す可能性がある」が38%となりました。これに、「すでに見直しを実施済みである」(3%)を含めると、見直しの意向をもつ企業は58%に上り、トランプ関税への懸念が来年度にさらに強く影響を及ぼすとみられます。
また、IT戦略に関わる中期計画についても、「現在見直しを検討中である」が19%と高く、「今後見直す可能性がある」と「すでに見直しを実施済みである」を含めると、58%の企業が見直しの意向を示しています。
これらの結果から、トランプ関税の影響は、短期的なIT投資だけではなく、中長期的なIT戦略にも波及することが予想されます。
<参考資料2>トランプ関税に伴うIT投資計画の見直し状況
さらに、2025年度および2026年度のIT予算を見直す意向を示した企業に対して、どのように見直すかを尋ねたところ、2025年度については、当初計画した予算よりも「増額した(増額を見込む)」との回答が42%に上り、「減額した(減額を見込む)」の25%を大きく上回りました。計画中の2026年度のIT予算においても、同様の傾向が確認されました。これは、トランプ関税の影響によるIT製品やサービスの価格上昇を見越して、IT予算を増額しようとする動きとも推測されます。
■ハードウェアからクラウドサービスへ支出がシフト
トランプ関税の影響によって、ハードウェア、ソフトウェア、クラウドサービスなどの各IT支出がどのように変動すると見込んでいるかを質問しました(参考資料3)。「サーバ/ストレージ/ネットワーク機器」「PC」「モバイルデバイス」のハードウェア支出については、減額を見込む企業の割合が増額を見込む企業を上回っており、関税による調達コストの上昇を懸念した慎重な姿勢がうかがえます。
一方、「IaaS/PaaS」および「SaaS」に関しては、増額を見込む企業の割合が減額を上回る結果となりました。これは、ハードウェアの調達コストの増加を想定して企業がクラウドサービス利用へシフトする動きや、ハードウェアの調達コスト上昇分をクラウドベンダーがサービス料金に転嫁する可能性を考慮した結果と考えられます。
また、「IT人材の採用コスト」は、全項目の中で最も増額を見込む企業の割合が高く、減額を大きく上回っています。IT製品やクラウドサービスのコストの見通しが不透明な現状にあっても、IT人材への投資を強化し、IT戦略を推し進めようとする姿勢が見て取れます。
<参考資料3>トランプ関税に伴うIT支出の変動見込み
ITRのシニア・アナリストである入谷 光浩は、「現時点において、トランプ関税により、国内企業はハードウェア調達の引き締めを強める可能性が高いと考えられます。今回の調査では、米国および中国からのIT製品調達を減らすと回答した企業はそれぞれ22%と21%となり、一方で、国内のIT製品の調達を増やすとした企業は23%に上りました。今後、関税のリスクを抑えるため、IT製品の調達先を海外から国内へシフトする動きが強まることが想定されます。また、同調査結果から、オンプレミスからクラウドサービスへのシフトが一層加速する兆しがうかがえます。ただし、これはクラウドサービスの料金への影響が小さいことを前提としている点に留意が必要です」と述べています。
■IT戦略において「コスト管理の厳格化」の優先度が上昇
トランプ関税に伴い、IT戦略上優先度が高まると考えられる取り組みとして、最も多くあげられたのは「コスト管理の厳格化」で28%となりました。これに、「国内ITベンダーとの取引強化」と「海外製品・サービスの調達コスト上昇への対応」がいずれも25%で続きました。国内企業においては、短期的なITコスト削減や調達先の国内回帰の動きが強まることが予想されます(参考資料4)。
<参考資料4>トランプ関税によりIT戦略上優先度が高まる取り組み(複数回答)
ITRのプリンシパル・アナリストである舘野 真人は、「米国の関税政策は、日本企業のIT戦略責任者に対して、短期的なコスト削減圧力への対応と、中長期的なサプライチェーンの再構築によるリスク低減という2つの大きな課題を突きつけているといえます。また、調査結果から、不安定な通商政策が、大規模投資やイノベーションを阻害する要因となり得ることも示唆されています。国内企業のIT責任者は、最新の経済情報を注視するとともに、不確実性を前提とした弾力的な投資計画を策定することが求められます」と述べています。
なお、ITRでは、本調査結果の主要ポイントをまとめたリサーチペーパーを5月下旬に発行いたします。同資料は、ITRのWebサイトよりダウンロードいただけます。
■調査の概要
本調査は、ITRが2025年4月22日から24日にかけて実施したもので、ITRの調査パネルメンバーのうち、従業員数50人以上の国内企業に所属し、IT戦略・IT投資の意思決定に関与する課長以上の役職者に対して、Web経由で回答を呼びかけました。その結果、1,271人から有効な回答を得ました。
■ITRについて
ITRは、客観・中立を旨としたアナリストの活動をとおして、最新の情報技術(IT)を活かしたビジネスの成長とイノベーションの創出を支援する調査・コンサルティング会社です。
戦略策定から、プロジェクトの側方支援、製品・サービスの選定に至るまで、豊富なデータとアナリストの知見と実績に裏打ちされた的確なアドバイスを提供します。