プレスリリース
タガメはアリによる捕食と乾燥リスクを考慮して産卵場所を決めている
倉敷芸術科学大学生命科学部環境生命科学科の渡辺黎也助教、長崎大学の大庭伸也准教授、同学部学生の大畑蓮(2025年度卒業)の研究グループは、絶滅危惧種の水生昆虫・タガメが、天敵であるアリからの捕食リスクや乾燥リスクの低い場所を厳選して産卵していることを、野外調査と室内実験から明らかにしました。
【研究の背景】
タガメは、メスが水面上に突き出た植物や棒などに卵塊を産卵し、その後オスが卵に給水しながらアリなどの天敵から保護します(図1)。オスの保護がない卵は、乾燥やアリの捕食によって孵化に至りません。そのため、メスはあらかじめ孵化成功率の高い場所を好んで産卵している(産卵場所選好性を持つ)可能性が考えられていましたが、タガメ亜科におけるその実態はこれまで未解明でした。現在、タガメは環境省の絶滅危惧Ⅱ類および特定第二種国内希少野生動植物種に指定されており、本種の繁殖生態を解明することは、具体的な保全策を講じるうえで極めて重要な知見となります。そこで本研究では、タガメの産卵場所選好性を解明するため、生息地での野外調査と室内実験を実施しました。さらに、半野外条件下において「日向」と「日陰」での孵化率の違いを比較検証しました。

【研究の成果】
一連の調査・実験の結果、タガメの産卵に関して以下の点が明らかとなりました。
産卵場所の選好性:
タガメのメスは、池の上空を覆う樹木の下を好み(図2)、陸伝いにアリが接近しにくい「岸から離れた位置の棒」に多く産卵していました。また、日陰になる場所や、棒の明るい面よりも「暗い面(日陰側)」を好んで産卵する傾向が見られました(図3)。
孵化率とオスによる保護:
卵塊を人工的に「日陰向き」と「日向向き」に配置した実験では、日向向きよりも日陰向きの方が、孵化率が有意に高いという結果が得られました(図4)。



これらの結果から、メスはアリが来ないような岸から少し離れた場所や日陰になりやすい場所に産卵することで、オスの「日傘行動」と相まって卵塊の乾燥リスクを低減させ、結果として孵化率を効率的に高めていると考えられます(図5)。

本研究の結果は、絶滅危惧種タガメの適切な産卵環境(棒の配置)を明らかにすることで、孵化率の向上と個体数の回復・増加に大きく貢献する重要な成果と言えます。
本研究の成果は英国昆虫学会誌『Ecological Entomology』に2026年6月15日に公開されました。
●論文詳細
Ohba S, Ohata R, Watanabe R (2026) Desiccation and predation risks shape oviposition site selection in a giant water bug. Ecological Entomology http://doi.org/10.1111/een.70105.(乾燥と捕食リスクがタガメの産卵場所選択を決める)
・著者名と所属
渡辺黎也(倉敷芸術科学大学生命科学部環境生命科学科 助教)
大庭伸也(長崎大学教育学部/大学院総合生産科学研究科 准教授)
大畑蓮 (長崎大学教育学部:2025年度卒業)
・論文(英文)ダウンロード
DOI:http://doi.org/10.1111/een.70105
【本リリースに関するお問い合わせ先】
・倉敷芸術科学大学 生命科学部環境生命科学科
渡辺 黎也 助教
電話:086-440-1060 メール: r-watanabe@kusa.ac.jp
・国立大学法人長崎大学 人文社会科学域(教育学系)中等教育講座 理科専攻
大庭 伸也 准教授
電話:095-819-2393 メール:ooba@nagasaki-u.ac.jp