プレスリリース
肥満症は、目にも悪い。ー眼科医が伝えたい、体重ではなく「健康障害」の話ー

「肥満症は、目にも悪い」
そう書くと、少し乱暴に聞こえるかもしれません。
体重の多い人を責めたいわけではありません。
「もっと痩せなければ」と不安をあおりたいわけでもありません。
むしろ、最初にお伝えしたいのは逆のことです。
体重や見た目だけで、その人の健康を決めつけてはいけません。
それでも眼科医として、肥満症について一度きちんと書いておきたいと思いました。
なぜなら、肥満症に伴う代表的な病気である糖尿病、高血圧、睡眠時無呼吸症候群は、すべて目と深く関わっているからです。
「自分は太っている」と思い込んでいませんか
体重が少し増えただけで、「自分は肥満だ」と思っている人がいます。
一方、筋肉量が多いために体重が重く、BMIが高くなる人もいます。
BMIは、体重を身長で補正して計算する便利な指標です。日本ではBMI25以上が肥満の目安とされています。
ただし、BMIだけでは、体重の中身が脂肪なのか筋肉なのかを区別できません。
筋肉量の多いスポーツ選手では、BMIが高くても体脂肪が過剰ではないことがあります。反対に、BMIが高くなくても、筋肉量が少なく、内臓脂肪が蓄積している人もいます。
つまり、BMIは健康状態を考えるための入口ではありますが、 それだけで健康か不健康かを判断できるものではありません。
見た目が細いか、太いかという話でもありません。
「肥満」と「肥満症」は違います
医学では、「肥満」と「肥満症」は区別されています。
肥満とは、体脂肪が過剰に蓄積した状態です。
そのうえで、高血圧、糖尿病、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群など、肥満に関連する健康障害が生じている場合、あるいは内臓脂肪の蓄積によって健康障害を起こす危険が高い場合に、「肥満症」と診断されます。
言い換えると、肥満症は見た目を評価する言葉ではありません。
肥満症とは、肥満によって健康への影響が出ており、医学的な治療が必要な状態を示す診断名です。
最近では肥満症治療薬の選択肢も増え、「痩せる薬」として話題になることがあります。
しかし、肥満症治療の本来の目的は、体重を減らして外見を変えることではありません。
血圧や血糖を改善し、睡眠時無呼吸症候群などの健康障害を減らし、将来の心筋梗塞や脳卒中、そのほかの合併症を防ぐことにあります。
肥満を「意志の弱さ」にしてはいけない
肥満症には、食事や運動だけでなく、遺伝的な体質、ホルモン、睡眠、ストレス、服用している薬、家庭や仕事を含む生活環境など、多くの要因が関係します。
それにもかかわらず、
「太っているのは自己管理ができていないから」
「痩せられないのは意志が弱いから」
と決めつけられることがあります。
体重や体型を理由に人を否定的に評価することは、ウエイトスティグマ、あるいはオベシティスティグマと呼ばれます。
こうした偏見は、人を傷つけるだけではありません。
医療機関を受診しにくくしたり、必要な治療を遠ざけたり、過度な減量や不適切な食事制限につながったりする可能性があります。
肥満症は、誰かを責めるための診断ではありません。
一方、医学的に肥満ではない人が、周囲の価値観や見た目の基準から「自分は太っている」と思い込み、必要以上に痩せようとすることも問題です。
大切なのは、細いか太いかではありません。
体に健康障害が起きているかどうかです。
それでも、なぜ眼科医が肥満症について書くのか
ここからが、眼科医として最もお伝えしたいことです。
肥満症に伴う代表的な健康障害には、
- 糖尿病
- 高血圧
- 脂質異常症
- 睡眠時無呼吸症候群
などがあります。
これらは、いずれも目の病気と関係します。
つまり、肥満症は体重だけの問題ではありません。
肥満に伴って全身の血管や代謝、睡眠に異常が起これば、その影響は網膜や視神経にも及びます。
糖尿病は、気づかないうちに網膜を傷めます
糖尿病で高血糖の状態が続くと、網膜の細い血管が障害され、糖尿病網膜症を発症することがあります。
問題は、初期には自覚症状がほとんどないことです。
見え方に困っていないから大丈夫、とは限りません。
進行すると、網膜の出血や黄斑浮腫、硝子体出血、網膜剝離などを起こし、硝子体注射、レーザー治療、手術が必要になることもあります。
糖尿病と診断された人に定期的な眼底検査が必要なのは、症状が出る前に変化を見つけるためです。
高血圧は、眼底の血管にも現れます
高血圧は、心臓や脳の血管だけでなく、網膜の細い血管にも負担をかけます。
眼底検査では、網膜動脈の狭窄や硬化、出血など、高血圧の影響が見つかることがあります。
また、高血圧や動脈硬化は、網膜静脈閉塞症にも関係します。
網膜静脈閉塞症は、網膜の静脈が詰まり、眼底出血や黄斑浮腫を起こす病気です。突然見えにくくなったり、視野の一部がかすんだりすることがあります。
眼底は、全身の血管の状態を直接観察できる、非常に特殊な場所です。
そのため、目の検査をしているつもりが、全身の血管リスクを考えるきっかけになることがあります。
見逃されやすい睡眠時無呼吸症候群
私が近年、特に注目しているのが睡眠時無呼吸症候群です。
睡眠時無呼吸症候群では、眠っている間に呼吸が繰り返し止まり、血液中の酸素濃度が低下します。
そのたびに体は危険を察知し、交感神経が活性化します。
この状態が一晩に何度も繰り返されることで、高血圧、糖尿病、不整脈、心筋梗塞、脳卒中などのリスクが高まります。
そして、その影響は目にも及びます。
睡眠時無呼吸症候群は、緑内障、網膜静脈閉塞症、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性などとの関連が報告されています。
私がこの問題を強く意識するようになったのは、眼底出血や網膜静脈閉塞症をきっかけに、未診断の睡眠時無呼吸症候群が見つかる患者さんを経験してきたからです。
本人には、「眠っている間に呼吸が止まっている」という自覚がないこともあります。
いびきや日中の眠気だけでなく、治療しても下がりにくい高血圧、肥満、首周りの太さなどが手掛かりになることもあります。
眼科で睡眠時無呼吸症候群の確定診断や治療をするわけではありません。
しかし、眼底に現れた変化や問診からその可能性を考え、睡眠医療の専門医へつなぐことはできます。
私は、そこにも眼科医の役割があると考えています。
肥満そのものと目の関係
肥満に関連する目の病気の多くは、糖尿病、高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群などを介して起こります。
さらに近年は、肥満に伴う慢性炎症、インスリン抵抗性、酸化ストレス、血管内皮機能の低下などが、網膜や脈絡膜、視神経へ影響する可能性も研究されています。
ただし、「BMIが高いから目の病気になる」と単純に言い切ることはできません。
目の病気には、年齢、血圧、血糖、脂質、喫煙、睡眠、遺伝的要因など、多くの条件が関係します。
だからこそ、体重だけで判断せず、血圧、血糖、腹囲、体組成、睡眠、そして眼底所見を含めて考えることが大切です。
目は、全身の健康を映す窓です
「体重が増えたから眼科を受診しよう」
そう考える人は、あまりいないでしょう。
しかし、肥満症に伴う糖尿病、高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群は、いずれも目に影響します。
そして反対に、目の異常が全身の病気を見直すきっかけになることもあります。
肥満症は、見た目を評価する言葉ではありません。
人を責めるための診断名でもありません。
体重だけでは分からない健康障害を見つけ、必要な治療へつなげるための医学的な概念です。
肥満でない人が、「自分は太っている」と思い込み、無理に痩せる必要はありません。
一方で、見た目が細くても、血圧、血糖、睡眠、内臓脂肪などに問題が隠れていることがあります。
大切なのは、細いか太いかではありません。
今の体が、健康に保たれているかどうかです。
私は眼科医ですが、「目だけ」を診ているつもりはありません。
眼底には、糖尿病、高血圧、睡眠時無呼吸症候群など、全身で起きている変化の一部が現れることがあります。
目に現れた小さなサインから、まだ見つかっていない病気を疑い、必要な医療へつなぐ。
目から全身を診る。
それが、私の目指している眼科診療です。

医療法人社団久視会 いわみ眼科
理事長:岩見 久司(医学博士・日本眼科学会認定 眼科専門医)
所在地:兵庫県芦屋市公光町11-2 CH158 BLDG HANSHIN ASHIYA 2F
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