報道関係者各位
    プレスリリース
    2026年3月17日 13:00
    学校法人近畿大学

    驚異の生命力! 上顎の大半を失った野生イルカ 2年間にわたり水中で行動を観察し、生活の維持を確認

    上顎を欠損したミナミハンドウイルカ(左:外観、右:餌の魚をくわえる様子)撮影:渡辺晋
    上顎を欠損したミナミハンドウイルカ(左:外観、右:餌の魚をくわえる様子)撮影:渡辺晋

    近畿大学農学部(奈良県奈良市)水産学科准教授 酒井麻衣、御蔵島(みくらしま)イルカ調査チーム 渡辺容子、御蔵島観光協会および合同会社みくラボ(東京都御蔵島村)小木万布らの研究グループは、東京都利島周辺に生息する野生のミナミハンドウイルカ※1 のうち、上顎の大部分を欠損しながらも少なくとも2年間生存し続けた個体を観察しました。本研究では、水中ビデオを用いた詳細な行動記録により、この個体が負傷後も勃起や排糞といった生理的な活動に加え、自力での採餌といった行動を継続できていることを確認しました。本研究成果は、野生動物が頭部に致命的とも思われる傷を負っても、驚異的な適応能力によって生活を維持できることを示す貴重な記録です。
    本件に関する論文が、令和8年(2026年)3月16日(月)に、海洋哺乳類に関する国際学術誌"Aquatic Mammals(アクアティック ママルズ)"に掲載されました。

    【本件のポイント】
    ●上顎の大部分を欠損したミナミハンドウイルカを、約2年間にわたり水中で継続観察
    ●負傷後も生理機能を維持し、自力で採餌をして体型を維持していることを確認
    ●野生動物が身体的欠損を負った後も健康を維持し、環境へ柔軟に適応することを示す重要な記録

    【本件の背景】
    イルカの「吻(ふん)」と呼ばれる上顎の部分は、採餌において重要な役割を果たしており、その損傷は野生下では致命的であると考えられてきました。これまで、吻部に損傷を負った野生個体の目撃例はありましたが、多くは水面上からの観察に留まっており、負傷した個体が水中でどのような行動をとり、どの程度の生活の質(QOL)を維持できているのかについては、詳細な記録がほとんどありませんでした。

    【本件の内容】
    伊豆諸島の利島周辺の海域は、平成7年(1995年)から断続的にイルカの個体識別調査※2 が実施されています。この海域はミナミハンドウイルカの行動圏の一部となっており、より南に位置する御蔵島から移住した個体や、その子孫が生息しています。令和元年(2019年)には、利島周辺の海域で野生のイルカ20頭が個体識別されました。
    研究グループは、利島周辺にて令和2年(2020年)6月に上顎の大部分を失ったミナミハンドウイルカの雄の成体を確認しました。その後、令和4年(2022年)6月までの約2年間にわたり、水中での継続的なビデオモニタリング調査を実施しました。
    最初の確認から約9カ月後の令和3年(2021年)3月、この個体の勃起および排糞行動が確認され、生理機能および代謝を維持していることが示されました。また、令和3年(2021年)6月には、残された上下の顎で大きな魚(推定50~70cm)を保持する様子が撮影されました。ここから、上顎を失っても健康状態を維持するのに十分な量の魚を捕らえることができている可能性が示されました。
    さらに、2年間の観察期間を通じて、この個体の体格には大きな衰えが見られず、周辺に生息する他の健康な雄個体と比較しても、筋肉や脂肪の付き具合に著しい差は認められませんでした。ここから、体型の維持もできていることが示唆されました。
    本研究成果は、上顎を失った後もミナミハンドウイルカが野生下で長期間生存し、環境へ柔軟に適応して健康を維持できることを示す重要な記録です。

    【論文掲載】
    掲載誌:Aquatic Mammals(インパクトファクター:1.09@2022)
    論文名:Observations on the Long-term Survival of an Injured Indo-Pacific Bottlenose Dolphin
        (Tursiops aduncus) without an Upper Rostrum in Toshima Island, Japan
        (利島(日本)における、上顎(吻部)を失った負傷したミナミハンドウイルカの
         長期生存に関する観察記録)
    著者 :渡辺容子1、小木万布2,3、酒井麻衣4
    所属 :1 御蔵島イルカ調査チーム、2 御蔵島観光協会、3 合同会社みくラボ、
        4 近畿大学農学部水産学科
    URL  :https://doi.org/10.1578/AM.52.2.2026.136
    DOI  :10.1578/AM.52.2.2026.136

    【研究者のコメント】
    酒井麻衣(サカイマイ)
    所属  :近畿大学農学部水産学科
    職位  :准教授
    学位  :博士(理学)
    コメント:今回の研究のポイントは、吻部に重傷を負った個体が、排糞や勃起・採餌といった、生きていく上で不可欠かつ日常的な行動を行っている姿を、水中での観察によって確認できたことです。深刻な傷を負いながらも驚異的な生命力で、たくましく生きる姿を捉えることができました。

    【用語解説】
    ※1 ミナミハンドウイルカ:伊豆諸島や小笠原諸島などの沿岸域に生息するイルカ。いくつかの個体群では個体識別による長期的な生態調査が行われている。
    ※2 個体識別調査:背ビレの傷跡や体の特徴をもとに、個々のイルカを特定して追跡する調査手法。

    【関連リンク】
    農学部 水産学科 准教授 酒井麻衣(サカイマイ)
    https://www.kindai.ac.jp/meikan/1358-sakai-mai.html

    農学部
    https://www.kindai.ac.jp/agriculture/