報道関係者各位
    プレスリリース
    2026年10月15日 13:00
    学校法人 名城大学

    【名城大学】導入剤を使わずに肺内で遺伝子発現を抑制 吸入可能なnaked siRNA高含有粉末製剤を開発

     特定の遺伝子の発現を抑えることで病気の治療を目指すsiRNA医薬は、現在、臨床応用が肝疾患に限定されており、他の疾患への適応拡大が強く望まれています。特に、肺疾患の治療に向けては、siRNAを肺内に直接送達できる吸入剤の開発が求められています。
     名城大学薬学部の奥田 知将 准教授 (薬物送達学、製剤学) のグループは、コレステロールを化学修飾したnaked siRNA注1)を高含有率で配合しつつ、安定性を備えた吸入粉末製剤の開発に成功しました。siRNAの細胞内への送達には、導入剤が広く用いられていますが、その毒性が課題となる場合があります。本研究では、導入剤を用いずに遺伝子発現を抑制できる製剤の開発に取り組み、優れた肺送達性を実現するとともに、肺内で遺伝子発現を抑制できることを明らかにしました。
     本成果は、導入剤を用いないnaked siRNAの吸入粉末製剤化の実現可能性および有用性を示すものであり、肺疾患治療への応用展開が期待されます。
     本研究成果は、2026年10月5日にElsevier B. V.社が出版する国際学術誌「International Journal of Pharmaceutics」に掲載されました。

    【ポイント】

    ・naked siRNAの高含有粉末製剤化に成功: コレステロール修飾naked siRNAを10%または20%の高含有率で配合し、製剤化後もsiRNAの化学構造と遺伝子発現抑制活性を維持
    ・優れた肺送達性を実現: 吸入による肺送達率が約60%に達し、既存の吸入剤で報告されている20–50%を上回る性能を確認
    ・導入剤を使わずに肺内で遺伝子発現を抑制: 肺転移モデルマウスへの気管内投与により、肺内の標的遺伝子の発現抑制効果を確認するとともに、今回の評価条件下で明らかな肺障害や炎症を示す変化がないことを確認

    【詳細な説明】

    1.背景

     siRNA (small interfering RNA) は、21–25塩基対程度の短い二本鎖RNAであり、RNA干渉注2)を誘導することで、標的遺伝子の発現を強力かつ選択的に抑制します。一方、siRNAは生体内でヌクレアーゼによって速やかに分解されることに加え、負電荷をもつ親水性高分子であるため、その物性により細胞に取り込まれにくいことが、臨床応用上の大きな課題となっています。こうした課題を克服するため、化学修飾や脂質ナノ粒子 (LNP) を応用したsiRNA医薬 (注射剤) が実用化されていますが、現在は肝疾患治療への適用に限定されています。また、LNPなどの導入剤注3)は、siRNAの細胞内への移行を促進する一方、毒性が高まる点が問題視されています。
     siRNAを肺疾患の治療に応用するためには、肺内にsiRNAを直接かつ非侵襲的に送達できる「吸入剤」としての製剤開発が有望視されています。なかでも取り扱いや保存が容易で、吸入投与に適した「粉末製剤」の開発が期待されています。しかし、吸入粉末製剤を実現するには、吸入による肺への送達に適した粉体物性を付与するとともに、製剤化後もsiRNAの構造・活性を保持できる高度な技術の確立が不可欠です。
     これまでに著者らは、噴霧急速凍結乾燥 (SFD) 法注4)および噴霧乾燥 (SD) 法注5)を用いて、疎水性アミノ酸のロイシン (Leu) を賦形剤とした粉末製剤を調製し、それらが優れた肺送達性を示すことを明らかにしてきました (参考文献1)。さらに、導入剤を含まないnaked siRNAにおいても物理的ストレスに対して比較的高い安定性を示すこと、またnaked siRNAと賦形剤を用いてSFD法およびSD法により粉末製剤化した際にも、siRNAの構造・活性を保持できることを見出しています (参考文献2)。

    2.研究内容及び本成果の意義

     本研究では、賦形剤としてLeuを適用したSFD法およびSD法を基に、高含有率 (10%または20% (w/w)) のnaked siRNAの吸入粉末製剤の開発に取り組みました。また、導入剤を用いずに遺伝子発現抑制効果を発揮することを目指し、siRNAにコレステロールを化学修飾したChol-siRNAついても同様に粉末製剤化し、無修飾siRNAを用いた粉末製剤と比較検証しました。
     電子顕微鏡で観察したところ、SFD製剤では内部が空洞で多孔質に富む直径が10–20 µmの球状微粒子が、SD製剤では表面が凹凸に富む直径が1–2 µmの球状微粒子がそれぞれ認められました。これらの粒子構造は、コレステロール修飾の有無およびsiRNAの含有率にかかわらず、主に製造法および賦形剤によって特徴づけられていました (図1)。また、電気泳動および培養細胞による評価から、これらの製剤中でsiRNAの化学構造および遺伝子発現抑制活性が維持されていることを確認しました。特にChol-siRNAを含む粉末製剤では、Chol-siRNAの原液と同様に、導入剤を加えずとも遺伝子発現抑制効果を発揮することを明らかにしました。
     さらに吸入による肺送達性を評価したところ、Chol-siRNAの含有率が20%のSFD製剤および10%のSD製剤はいずれも、肺送達率が約60%であり、実用化されている吸入剤 (肺送達率は20–50%) よりも優れた肺送達性を有していました。
     続いて、ルシフェラーゼを標的とするChol-siRNA の含有率が20%のSFD製剤および10%のSD製剤について、ルシフェラーゼを発現するがん細胞の肺転移モデルマウスを用いて、気管内投与による遺伝子発現抑制効果を評価しました。無投与群では、日数経過に伴ってがん細胞の増殖により肺内でルシフェラーゼ量が増加するのに対して、これらの粉末製剤を投与した群では、Chol-siRNAの原液を投与した場合と同様に、ルシフェラーゼ量の増加が抑制されました (図2)。この結果から、Chol-siRNAを含む吸入粉末製剤が、肺内で遺伝子発現抑制効果を発揮することが示されました。
     さらに、種々の障害性マーカー (体重・動脈血酸素飽和度・肺重量および気管支肺胞洗浄液中の有核細胞数・乳酸脱水素酵素漏出量・炎症性サイトカイン量) を測定し、製剤投与による影響を評価したところ、いずれの指標も無投与群と同程度であり、今回評価した条件下では、明らかな肺障害や炎症を示す変化は認められませんでした。これらの結果は、本製剤が優れた肺送達性と遺伝子発現抑制効果を示すとともに、一定の安全性を有する可能性を示しています。

    3.今後の展開

     これらの研究成果を基に、(株) アルバック、大阪大学、日本医療研究開発機構 (AMED) と協力し、治療用siRNAを用いた産学官連携による共同研究を進めています。さらなる研究成果の積み重ねにより、肺疾患治療薬としての実用化を目指していきます。

    【参考文献】

    1. Otake H, Okuda T, Okamoto H. Development of Spray-Freeze-Dried Powders for Inhalation with High Inhalation Performance and Antihygroscopic Property. Chem Pharm Bull. 2016;64(3):239–245.
    1. Okuda T, Okazaki M, Hayano A, Okamoto H. Stability of Naked Nucleic Acids under Physical Treatment and Powder Formation: Suitability for Development as Dry Powder Formulations for Inhalation. Pharmaceutics. 2023;15(12):2786.

    【用語解説】

    注1 naked siRNA
     導入剤などの送達担体を用いずに、単独で取り扱うsiRNAを指す。本研究では、コレステロールを化学修飾したsiRNA (Chol-siRNA) も対象としている。

    注2 RNA干渉
     二本鎖RNAと相補的な塩基配列を有するmRNAが分解あるいは翻訳阻害される遺伝子発現抑制機構のことで、ウイルスに対する感染防御としても機能している。この機構の発見者であるAndrew Z. Fire氏とCraig C. Mello氏は、2006年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。siRNAを細胞内に導入することで、人為的にRNA干渉を誘導することができる。

    注3 導入剤
     核酸を細胞内へ効率よく送達するために用いられる物質。主に正電荷を有する高分子やナノ粒子が用いられ、負電荷を帯びた核酸との静電的相互作用を介して、複合体の形成やナノ粒子への封入が行われる。これにより、核酸の安定性を高めるとともに、細胞内移行性を増大する。mRNAワクチンに応用されているLNPも導入剤に該当し、副作用の原因である可能性が指摘されている。

    注4 噴霧急速凍結乾燥 (spray freeze drying: SFD) 法
     成分溶液を液体窒素中に噴霧することで、液滴を瞬間凍結し、凍結乾燥機内で昇華により溶媒を除去する乾燥技術。凍結した液滴中の溶媒が除去される過程で空洞が形成され、中空多孔性に富む球状の粉末微粒子が得られる。また、凍結した液滴の表面積が大きいため、従来の凍結乾燥法よりも乾燥時間を短縮できる利点もある。

    注5 噴霧乾燥 (spray drying: SD) 法
     成分溶液を高温気流中に噴霧することで、蒸発により液滴中の溶媒を除去する乾燥技術。蒸発の進行に伴って液滴のサイズが小さくなるため、極微細な球状の粉末微粒子が得られる。海外では、この技術を基に開発した吸入粉末製剤が実用化に至っている。

    【掲載論文】

    雑誌名:International Journal of Pharmaceutics
    タイトル:Development of inhalable dry powders with a high content of naked cholesterol-modified siRNA by spray freeze drying and spray drying techniques
    (噴霧急速凍結乾燥法および噴霧乾燥法による、吸入可能なコレステロール修飾naked siRNA高含有粉末製剤の開発)
    著者名:Tomoyuki Okuda, Kotone Oshiro, Mayu Sakakibara, Takashi Murakami, Hirokazu Okamoto(奥田知将、大城琴音、榊原茉優、村上 孝、岡本浩一)
    掲載日時: 2026年10月5日
    DOI: 10.1016/j.ijpharm.2026.127308

    【著者のコメント】

    奥田知将(名城大学 薬学部 准教授)
     本研究の成果は、主に指導学生の大城琴音さんが熱心に研究に取り組んだ努力が結実したものです。6年制の薬学部生として限られた卒業研究期間中に、粉末製剤の作成から物性評価、培養細胞および小動物を用いた作用評価まで幅広く実験に従事してもらい、苦労や喜びを分かち合いながら研究を進めてきました。今後も学生に研究の魅力や面白さを伝えつつ、協同して成果を出していきます。

    【本件に関するお問い合わせ先】

    ・研究内容に関すること
     名城大学 薬学部 准教授
     奥田 知将(おくだ ともゆき)
     Tel: 052-839-2654
     Email: tokuda@meijo-u.ac.jp 
     
    ・広報担当
     名城大学渉外部広報課
     Tel: 052-838-2006
     Email: koho@ccml.meijo-u.ac.jp