プレスリリース
教えて清水先生!!住まいの相談室 ーマンションの価格は下がることはないの?(第2回:家を持つことのリスクを考える)|PropTech-Lab

清水 千弘・PropTech-Lab 所長
一橋大学大学院ソーシャルデータサイエンス研究科教授、社会科学高等研究院都市空間不動産解析研究センター・センター長。1994年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程中退。東京大学博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て、現職に至る。
皆さん、こんにちは。
株式会社property technologiesが設立した不動産テック研究・開発組織 『PropTech-Lab(プロップテック・ラボ)』所長の清水千弘です。
前回(第1回:住宅価格の決まり方)では、住宅価格が「家賃」だけで決まるのではなく、金利(割引率)と、さらにその奥にある人々の「期待」で大きく動く、という話をしました。
そして、DCF(Discounted Cash Flow=割引キャッシュフロー)という考え方を使うと、「このマンションは“いま”いくらの価値があるのか?」を、比較的筋の通った形で整理できることも見てきました。
【関連記事】 マンションの価格は下がることはないの?(第1回:住宅価格の決まり方)
ここからが今日のテーマです。
DCFは万能の魔法ではありません。DCFは、計算の「前提(仮定)」にとても敏感です。つまり、前提が少し変わるだけで、「価値」が何百万円単位で動いてしまうのです。これが、家を持つときの大きなリスクの正体です。
今回は、あなたが購入前に必ず押さえておきたい2つのリスクを、数字で「体感」できるように一緒に見ていきます。
▢金利(割引率)が1%上がると、投資価値はどれくらい下がるのか?
▢10年後に3,000万円で売れなかった場合、価値はどれくらい変わるのか?
(※説明を分かりやすくするため、税金・仲介手数料・管理費・修繕積立金・空室・リフォーム費用などは、ここではいったん置いておきます。現実には大事な要素なので、後で必ず戻ってきます。)
「金利が1%上がると?」/「3,000万円で売れなかったら?」

先生、前回教えてもらったDCF法、すごく納得感がありました。「家賃」と「将来売れる値段」から今の価値を計算するんですよね。でも……。

おや、何か不安そうな顔ですね。

はい…。「もし、計算の前提がズレたらどうなるんだろう」って。例えば金利が上がったり、思ったより安くしか売れなかったり。

鋭いですね。今日はその「前提のズレ」がどれだけ価格にインパクトを与えるか、数字で検証してみましょう。
まず「基準」のケースを思い出しましょう
あなたが買おうとしているマンションが、仮にこういう条件だとします。
▢家賃:月10万円(=年120万円)
▢家賃が続く期間:10年
▢10年後の売却価格:3,000万円
▢割引率:年2%
このとき、DCF法で「いまの価値」を計算するとこうなります。
▢家賃10年分の現在価値:約1,078万円
▢10年後に3,000万円で売れる価値(現在価値):約2,461万円
▢合計(DCFの現在価値):約3,539万円
今回は計算しやすいように、この合計額を「約3,540万円」とし、これを“基準点”にします。ここから前提を動かして、「価値がどれだけ揺れるのか」を見ていきましょう。
金利(割引率)が1%上がると、価値はどれくらい下がる?
まず最初のリスクは、金利(割引率)です。ここで大事なのは、住宅購入で出てくる「金利」には2種類ある、ということです。
- 住宅ローン金利(毎月の返済額に影響する)
- 割引率(将来の家賃や売却価格を「いまの価値」に直すときに使う)

厳密には同じものではありません。でも現実には、世の中の金利環境やリスク感が変わると、どちらも同じ方向に動くことが多いです。そして市場価格(売買価格)は、後者の「割引率」の影響をとても強く受けます。
では、割引率が 2% → 3% に上がったら、どうなるでしょう。
(つまり「金利が1%上がった世界」を想像してください。)
【割引率が1%上昇した場合(2% → 3%)】
▶2%のとき(基準): 価値 約3,540万円
▶3%のとき(1%上昇): 価値 約3,256万円
(内訳:計算し直すと、ざっくりこうなります)
▢家賃10年分の現在価値:約1,024万円
▢10年後3,000万円の現在価値:約2,232万円
▢合計(DCFの現在価値):約3,256万円
基準(3,540万円)と比べると、 価値は約284万円下がります。(3,540万円 → 3,256万円)

ええっ!? たった1%変わっただけで、約284万円も価値が下がったのですか?

そうなんです。「たった1%で、なぜこんなに下がるの?」と思うかもしれませんが、理由はシンプルです。住宅の価値のかなりの部分は、「遠い将来の大きなお金」――つまり『売却価格』に支えられているからです。
家賃(年120万円)も確かに大事です。でも、「10年後に3,000万円で売れる」という期待は金額が大きく、しかも“遠い未来”の話なので、割引率が上がるとガツンと価値が削られてしまうのです。
ここで一つ、覚えておいてほしい感覚があります。住宅は、金利に弱い資産です。 「金利が少し動いただけ」でも、価格(価値)は大きく揺れやすい。
さらに怖いのは、これが「市場価格の話」だけでは終わらないことです。もしあなたが変動金利でローンを組んでいたら、
1. 市場価格は下がりやすいのに、
2. 毎月のローン返済額は上がりやすいという“ダブルパンチ”を食らう可能性があります。
今回はDCFの枠組みに集中しますが、「金利リスクは、家計(返済)にも資産価値(価格)にも同時に効く」――この点は、購入前に必ず意識しておいてください。
3,000万円で売れなかったら、価値はどれくらい下がる?

次のリスクは、もっと直感的です。「10年後に本当に3,000万円で売れるのか?」という問題です。

確かに。転勤、家族構成の変化、親の介護、子どもの進学、仕事の変化……。「いつか売るかもしれない」というのは、多くの人にとってかなり現実的な未来ですよね。

その通り。だから、売却価格が想定より下がるリスクは、“投資目的の人”だけの話ではありません。自宅として買う人にも直撃するリスクです。 では、割引率は元の「2%」に戻して、売却価格だけを動かしてみましょう。
【ケースA:10年後、2,500万円でしか売れなかった】
▶10年後に3,000万円で売れる価値がある(基準):価値 約3,540万円
▶10年後に2,500万円で売れる価値がある(基準):価値 約3,129万円
▢家賃の現在価値:約1,078万円(ここは同じ)
▢売却2,500万円の現在価値:約2,051万円
▢合計(DCFの現在価値):約3,129万円
基準(約3,540万円)から見ると、約411万円下がります。(3,540万円 → 3,129万円)
【ケースB:10年後、2,000万円でしか売れなかった】
▶10年後に3,000万円で売れる価値がある(基準):価値 約3,540万円
▶10年後に2,000万円で売れる価値がある(基準):価値 約2,719万円
▢家賃の現在価値:約1,078万円(同じ)
▢売却2,000万円の現在価値:約1,641万円
▢合計(DCFの現在価値):約2,719万円
基準(約3,540万円)から見ると、約821万円下がります。(3,540万円 → 2,719万円)
ここで分かる「怖さ」
10年後の売却価格が500万円下がるだけで、現在の価値は約400万円消えます。1,000万円下がれば、現在の価値は約800万円も消えてしまいます。
これが意味するのは、こういうことです。
住宅価格(価値)は、「家賃」の積み上げだけでなく、「最後にいくらで売れるか」という期待に強く支えられているのです。
そして売却価格の期待は、次のような要素で簡単に揺らぎます。
▢その街の人気が続くか(人口・雇用・再開発)
▢周辺で新築供給が増えすぎないか
▢建物が古くなったとき、買いたい人がいるか
▢管理状態が良いか(修繕・管理組合・トラブル)
▢災害リスクや規制の変化はないか
▢「マンションは上がる」というムードが続くか

つまり、売却価格は「未来の空気」に左右されます。これこそが、第1回で触れた“期待”の正体です。
リスクの本質は「前提が動くこと」ではなく「前提に乗りすぎること」
ここまでの数字をまとめると、こう言えます。
▢金利(割引率)が1%上昇 → 価値が約280万円下がる
▢売却価格が想定より500万円ダウン → 価値が約410万円下がる
▢売却価格が想定より1,000万円ダウン → 価値が約820万円下がる
そして現実には、「金利が上がる局面で、不景気になり売却価格の期待も弱くなる」という“同時発生”が起きることがあります。
だから、家を持つことのリスクとは、結局こういうことです。 あなたが買うときの価格は、ある前提(低金利・強い期待)の上に立っている。その前提が動けば、価値も動く。
そしてもっと大事なのは、前提が動くこと自体よりも、「前提が動いたときに、あなたが耐えられるかどうか」です。
あなたが購入前にできる、いちばん実用的な「守り方」

先生、どうすればいいんでしょう? 未来のことなんて誰にも分からないのに。

おすすめは、難しい予測を当てにいくことではありません。「高騰は続くか」を当てにいくのではなく、「予測が外れても生活が壊れない買い方」に寄せていくことです。
たとえば、あなたが検討している物件について、次の3つを計算してみてください。
1. 基準シナリオ:いま考えている前提(割引率2%、売却3,000万円など)
2. 控えめシナリオ:割引率+1%(=3%)、売却価格-10〜20%
3. 厳しめシナリオ:さらに売却価格-20〜30%、想定外コストも少し上乗せ
そのうえで、「控えめシナリオ」になったとしても、
▢家計が回る
▢住み続けられる
▢気持ちが崩れない
なら、その購入決断はかなり強くなります。
次回に向けて:「それでも住む価値としてどう考えるか」
ここまで読むと、少し不安になったかもしれません。でも、怖がらせたいわけではありません。大切なのは、住宅が「資産」である以上、リスクは避けられないという事実を知ったうえで、「それでも買う理由」を自分の中に持つことです。
次回は、ここを丁寧に扱います。
▢価格が多少下がっても、「それでもここに住んでよかった」と思える条件は何か?
▢「住む価値」をどうやって判断に組み込むのか?
▢資産としての目線と、生活としての目線を、どうやって両立させるのか?
数字だけでは決められない。でも、数字を無視すると危ない。そのちょうど真ん中を、あなたの言葉で整理できるようにしていきましょう。次回も、ぜひ一緒に考えていきましょう。お楽しみに。
『PropTech-Lab(プロップテック・ラボ)』について

『PropTech-Lab』は、不動産市場に新たな価値をもたらし、人々が住まいを選ぶ際の新たな基準や簡便さ、価値観を醸成し、提供することを目指します。市場のニーズに応え、価格高騰のスパイラルを抑制し、より多くの人々が質の高い住宅を手に入れられるよう努めてまいります。
『PropTech-Lab』 所長 清水 千弘 について
一橋大学大学院ソーシャルデータサイエンス研究科教授、社会科学高等研究院都市空間不動産解析研究センター・センター長。1994年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程中退。東京大学博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授等を歴任。
2022年1月より、当社グループ参画。社外取締役を経て、2024年7月より、当社研究・開発組織『PropTech-Lab』所長に就任。

株式会社property technologies(プロパティ・テクノロジーズ)について
「UNLOCK YOUR POSSIBILITIES. ~テクノロジーで人生の可能性を解き放つ~」というミッションを掲げています。年間36,400件超の不動産価格査定実績やグループ累計約15,100戸の不動産販売で培ったリアルな取引データ・ノウハウを背景に、「リアル(住まい)×テクノロジー」で実現する「誰もが」「いつでも」「何度でも」「気軽に」住み替えることができる未来に向け、手軽でお客様にとって利便性の高い不動産取引を提供しています。
<会社概要>
会社名:株式会社property technologies
代表者:代表取締役社長 濱中 雄大
URL:https://pptc.co.jp/
本社:東京都渋谷区本町3-12-1 住友不動産西新宿ビル6号館12階
設立:2020年11月16日
上場:東京証券取引所グロース市場(5527)