プレスリリース
【セミナー事後レポート】札幌市主催セミナー『脱東京で切り拓くウェルビーイング経営~地方で見つける企業と人の新しい幸せ~』開催
注目されるウェルビーイング経営と地方進出の魅力とは。
札幌市は、11月21日(金)東京・新宿にて、企業誘致を目的としたセミナー「脱東京で切り拓くウェルビーイング経営~地方で見つける企業と人の新しい幸せ~」を開催しました。
本セミナーは、「ウェルビーイング」をテーマに掲げ、地方進出がどのように企業価値を高めるのかを、具体的な視点から深く掘り下げることで、札幌を含む地方進出の魅力を感じていただくことを目的としたものです。基調講演やパネルディスカッションを通して、ウェルビーイング経営のあり方や実際に札幌市や淡路島へ地方進出した企業の実践例、ビジネス面での札幌市の魅力について紹介しました。
当日は東京に本社を持つIT関連企業や半導体関連企業など、幅広い業種の企業から約50名が参加。参加者からは「札幌への進出に興味がわいた」「東京以外だからこそ実現できるウェルビーイングがあることが理解できた」といった声が聞かれました。
札幌市は今後も首都圏でセミナー等のイベントを実施し、札幌への企業進出を呼びかけていきます。


セミナー内容
【基調講演】

武蔵野大学ウェルビーイング学部長・慶応義塾大学名誉教授
前野隆司(まえの・たかし)氏
「ウェルビーイング経営社員と社会を幸せにする経営とは」
元々はロボット研究をしており、人とロボットの関係を研究するなかで、「人が幸せに働くとは何か」に関心を持ち、心理学的なウェルビーイング研究へと転じました。ウェルビーイングとは、WHOの定義では「身体的・精神的・社会的に良好な状態」を指します。単なる幸福感ではなく、健康や社会とのつながりを含む「体と心と社会の良い状態」と考えています。心理学と経営学の研究によると、幸福度の高い社員は不幸せな社員に比べて創造性が約3倍、生産性が約31%高いという結果がでています。また、幸福な社員は欠勤率・離職率が低く、業務上のミスも少ない傾向があります。幸せな人は視野が広く、柔軟な発想ができます。
心理学と経営学の研究によると、幸福度の高い社員は不幸せな社員に比べて創造性が約3倍、生産性が約31%高いという結果がでています。また、幸福な社員は欠勤率・離職率が低く、業務上のミスも少ない傾向があります。幸せな人は視野が広く、柔軟な発想ができます。だからこそ、新しいアイデアが生まれ、企業の成長につながるのではないでしょうか。①やってみよう因子(自己実現と成長)②ありがとう因子(つながりと感謝)③なんとかなる因子(前向きと楽観)④ありのままに因子(独立と自分らしさ)。この四つの因子を満たすことが幸福度を高めていきます。
地方企業が示す「ウェルビーイング経営」の実例として、徳島県の製造業の会社 では、社員の94%が「月曜日に会社へ行くのが楽しみ」と回答しています。毎朝の朝礼で理念共有を行うとともに 、グループに分かれ社員一人ひとりが今日の改善提案を行い、互いに助言をし合うことで、個人が主体的に動く環境を整えているのです。幸福度を高める四つの因子につながる、このような取組みを行っている結果、創造性と生産性が高まり、離職率も極めて低いそうです。地方では人と人とのつながりが深まりやすく、地域社会との関係性を実感しやすいことから、ウェルビーイング経営を実現しやすい環境が整っていると言えるでしょう。
かつては“都心一極集中型で東京の大企業に入ること”が成功の象徴とされてきましたが、今は“自分らしく幸せに働ける会社”を選ぶ若者が増え、それぞれの個性を生かしながら生きる時代へと変化しています。社員が幸せに働く会社には、優秀な人材が集まり、辞めません。幸せな職場づくりが、結果として企業の競争力を高めていくでしょう。
最後に、社員のウェルビーイングを考えることが、企業の未来を作っていくと考えていただければと思います。
【パネルディスカッション】
【登壇者】※写真右側より
武蔵野大学ウェルビーイング学部長/慶応義塾大学名誉教授
前野 隆司(まえの・たかし)氏
株式会社パソナグループ執行役員 広報本部副本部長兼関西・淡路広報部長
佐藤 晃(さとう・あきら)氏
アクサ生命保険株式会社執行役員カスタマーサービス本部長兼札幌本社長
野島 崇(のじま・たかし)氏
札幌市副市長 加藤 修(かとう・おさむ)
【MC/モデレーター】
Forbes JAPAN 執行役員 Web編集長
谷本 有香(たにもと・ゆか)氏


アクサ生命様は札幌へ、パソナ様は淡路島へそれぞれ本社機能の一部を移転されておりますが、地方進出の経緯について教えてください。
野島氏:札幌に本社機能の約50%を移転してから10年が経過しました。移転のきっかけは東日本大震災で、首都圏に本社機能が集中するリスクを分散し、事業継続性を最大限高めることを狙いとしていました。札幌を選んだ理由として、災害リスクの低さや教育環境の充実、行政の支援体制などがあります。現在札幌本社は約500名の従業員が在籍し、ファイナンス部門や人事部門など、複数の本社機能を有しています。
佐藤氏:2020年に本社機能移転を公表し、それから数年かけて本社機能の約3分の2を兵庫県淡路島へ移転しました。移転の目的は、災害時のリスク分散、社員の心豊かな働き方の実現、そして地域とともに新産業を創出することの三つです。淡路島では、自然に囲まれた環境の中で社員がいきいきと働いており、音楽家やバレリーナなど多様な人材も活躍しています。文化や芸術の力も取り入れたウェルビーイング経営を進めています。
札幌市の特徴や魅力を教えてください。
加藤:東京と札幌は直線距離で約800km離れているため、同時被災リスクが低いことが大きな特徴です。さらに、札幌市は災害に強いまちづくりを進めています。非常用電源や自律分散型エネルギー供給環境の整備など、道内全域がブラックアウトした北海道胆振東部地震の教訓を生かし、災害時にも安心して企業活動ができる強靭なまちづくりを進めているところです。
札幌は都市機能と自然が調和したまちです。都心部は地下通路が発達し、企業や大学などが集積している一方で、都心からほんの少し足を伸ばすだけでスキーやキャンプ、温泉、ゴルフなどのレジャーを楽しむことができる 環境が、札幌に住む皆様の満足度向上に繋がっていると考えています。
北海道内の高等教育機関の約半数が集積する札幌では、産学官連携が活発に行われているなど、イノベーションの創出を後押しするまちでもあります。さらに、札幌では現在大規模な再開発が進んでおり、2020年から2030までの間に東京ドーム6個分に当たる、約30万平米のオフィスが供給される見込みです。本市では、「札幌が、大きく、新しく、変わる」という意味を込めた「大札新(ダイサッシン)」というスローガンを掲げ、官民一体となって企業誘致に関する取り組みを進めています。
ウェルビーイング経営に関して取り組まれたことは。 環境や働く場所はウェルビーイングに寄与するのでしょうか。
前野氏:居住環境と幸福度の関係についての研究結果も出てきています。例えば、自然の近くに住む人や、創造性を発揮できる環境にいる人は幸福度が高い傾向があり、地方でも都会でも「魅力ある場所に住むこと」が幸福につながりますね。
野島氏:札幌への本社機能移転を契機に進めてきた健康経営の一環として、従業員の身体的・精神的健康を支援するプログラムを継続的に拡充しています。セグメントを細分化し、属性ごとにきめ細やかなサポートを行っています。 また、札幌と東京の二本社体制を整備する中で、早期からデジタル化・オンライン化を推進しました。コールセンター業務などを在宅でも行える仕組みを整え、様々な事情のある従業員に対し柔軟な働き方を実現してきました。
佐藤氏:移住対象の社員には子育て世代も多く、社員が懸念していたのは、医療・教育面の問題です。そのため、兵庫県芦屋市のインターナショナルスクールと提携し、淡路島に新たなスクールを設立しました。社員の子どもが通いやすいよう、福利厚生の一環として費用を抑える仕組みを整えました。
また、住環境の整備にも力を入れました。東京では通勤に1時間以上かかる社員も多かったのに対し、淡路島では「職住近接」を実現しました。自宅からオフィスまで車やバスで5〜10分以内で通えるような立地に住居を用意し、社員が住むマンションの1階をオフィスにしたり、託児施設や学童スペースを作り、仕事と生活を一体化できる環境を整えています。


札幌市への進出後、社員から上がってきた課題はありますか。 札幌市として、進出企業からの声はどのようにお聞きになっていますか。
野島氏:札幌への本社機能移転に際して大きな課題はほとんどなかったと思います。札幌は日本有数の都市であり、医療や教育、生活インフラといった都市機能がすでに整っていたため、東京と比べても遜色がなかったです。移転当初は、東京からの転勤者が中心となって事務所の立ち上げを進める必要がありましたが、札幌市様や北海道様から、転勤してきた従業員への衣食住面での情報提供やサポートをいただきました。そのため、移転に伴う大きな混乱や課題は生じなかったですね。
加藤:札幌に進出した企業の社員の方からは「通勤が楽になった」という声が多く寄せられています。札幌では通勤時間が長くても30分程度で済み、東京のように満員電車に揺られて1時間以上かけて通う必要がありません。医療面では大学病院をはじめ高度な医療機関が集まっており、まったく不安はないかと思います。教育面では、札幌は公立教育が中心になっています。私立やインターナショナルスクールなど多様な教育ニーズを求めている方にとっては少し心配な部分があるかもしれません。今後は外国人住民も増加していく見込みのため、英語教育や国際的な教育環境の充実を図る必要があると考えています。
地方進出の際、社員をどのようにして説得し、理解や共感を得ましたか。 また、進出後の現地採用の有無や、移住社員と現地採用社員の割合と、雇用条件や福利厚生を教えてください。
野島氏:まずは「行きたい人」を募る形でスタートしました。最初は希望者が少なかったものの、会社としての使命やパーパスを丁寧に説明した結果、札幌への異動を快く引き受けてくれる社員が増えたと感じております。会社として転勤者へのケアもしっかりと行うほか、「行きっぱなし」ではなく、2〜5年のスパンで東京に戻る選択肢を設けるなど、長期的なキャリア設計を見据えた柔軟な対応を行いました。現在では、札幌拠点の社員約500人のうち、約95%が現地採用となり、そこから管理職や幹部候補も育っています。雇用条件や待遇については、東京と全く同じ制度で運用しています。評価や報酬体系も統一しており、同じ仕事をすれば同じ対価を得られる仕組みを維持しています。また、札幌で働き続けたいという社員が一定程度いることを考慮し、札幌勤務のみを希望する社員向けに地域限定採用制度を設け、希望に応じた柔軟な働き方を可能にしています。
佐藤氏:移転発表当初は、家族の介護や子どもの教育などを理由にすぐに移れない社員もいたため、会社としては「強制ではなく希望制」を採用しました。まずは希望者から順次移転を進め、東京でも引き続き働ける環境を残しました。移転後は、社員とその家族が安心して暮らせるよう、地域コミュニティや行政と連携して医療・教育体制を整備しました。特に子育て世代の社員からは「地域の人々が子どもを見守ってくれる」「東京よりも安心して暮らせる」といった声が多く寄せられ、口コミを通じて移住希望者が増えていきました。現在では淡路島で約2,000人の社員が働いています。現地採用にも力を入れており、これまで本社機能として東京に集中していた経営企画・広報・人事・総務などの職種を淡路島でも募集しています。地方には優秀な人材が多く、これまでに多くの人材採用を実現しました。待遇面については、アクサ生命と同様に「東京と同じ水準」で運用しており、地域限定勤務を希望する社員には専用の処遇体系を設けています。


地方進出がどのように価値創造や企業成長につながったのでしょうか。
前野氏: 地方進出が企業の価値創造やイノベーションに与える影響について、「多様性」と「感性の豊かさ」が鍵になります。
イノベーションを生み出すには、異なる背景や考え方を持つ人々が集まり、自由に意見を交わす環境が必要です。自然豊かな地域で働くことは、感性を刺激し、創造性や人間関係、自己肯定感を高める効果があります。例えば、自然の中で働くことで「夕日がきれいだ」といった小さな感動に気づく感性が育まれ、それが新しい発想や挑戦につながっていきます。地方での働き方は、単なる環境の変化ではなく、企業の創造力を高める重要な要素になり得ると考えています。
野島氏:札幌への本社機能移転が企業業績や従業員意識に与えた具体的な成果について、まず、営業面では新規契約者数やセールス実績が10年前と比べて約2倍に増加しました。さらに、バックオフィスやコールセンター業務などの生産性も30%向上しています。これらは社内のモニタリング指標として明確に確認されている成果です。従業員のエンゲージメントも大きく改善し、「この会社を他人に勧めたい」と答えた札幌本社の社員は、10年前は半数程度だったのに対し、現在は約80%がポジティブに回答しています。従業員のやりがいや職場への満足度が高まったことが、結果的に企業の成長にもつながっています。
佐藤氏:淡路島への本社機能移転によって社員の定着率や満足度が大きく向上しました。淡路島で働く社員の定着率は全国平均よりも高く、アンケートでは移住社員の大半が「淡路から離れたくない」と回答していまして、自然に囲まれた環境や地域コミュニティとのつながりが、社員のウェルビーイングを高めています。
また、業務効率の面でも成果が出ており、東京で1,200人が担っていた業務を淡路島では約900人で遂行できるようになりました。DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進も相まって、生産性が向上しました。さらに、余力を活用して新規事業の創出にも取り組むなど、地方進出が企業の成長とイノベーションの促進につながっています。
札幌市は、企業の発展や成長を後押しするために、どのような支援を行っていますか。
加藤:札幌市に進出した企業が発展することが札幌の発展につながると考えており、お互いが幸せになる関係を築くことが大切だと思っています。札幌市では進出検討の段階から、事業展開後まで、ワンストップで支援を行っています。進出を検討する企業に対しては、札幌のビジネス環境に関する情報提供をはじめ、人材確保のために大学や専門学校など教育機関との連携を支援しています。また、地元企業との協力体制づくりや、不動産会社と連携したオフィス物件探しのサポートなど、進出までのプロセスを総合的に支援しています。さらに、札幌市内に本社機能を移転する企業には最大2億円、IT・コンテンツ・バイオ分野の研究開発拠点を新設する企業に対しては、最大1億円の賃料補助を実施しています。最長2年間、実質的に賃料が無料となる可能性もあり、企業の費用負担軽減を目指しています。また、進出後も、ビジネスマッチングや人材確保の支援を継続的に行うなど、きめ細かなサポートを行っています。
札幌は、企業にとっても人にとっても成長できるまちです。企業が安心して進出し、「長期的に成長できる環境づくり」を重視しており、行政・産業・教育機関が一体となった支援体制を整えています。都市機能と自然が調和したまちであり、企業の生産性向上と社員の幸福の両立が実現できる場所です。市としても、企業の挑戦を支えるパートナーであり続けていきます。


大札新(ダイサッシン)について

1972年に開催された札幌五輪で都市化が進んだ札幌は今、50年の時を経て都市のリニューアルが進んでいます。大規模な再開発が続々と行われ、これまでにないオフィスビルの供給とともに、全国随一の再エネポテンシャルを活かした脱炭素社会の実現に向けた新しい都市へと、歩みを進めています。
札幌市では、「札幌が、大きく、新しく、変わる。」そして「大きく変わる札幌をビジネスの新天地に」という思いを込め、「大札新」をスローガンに掲げ、官民一体となって企業誘致に取り組んでいます。
●NEXT SAPPORO 企業進出総合ナビ
https://www4.city.sapporo.jp/invest/
【札幌への進出・大札新に関するお問い合わせ先】
札幌市経済観光局 経済戦略推進部企業立地課
TEL:011-211-2362
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