プレスリリース
【名城大学】統合失調症治療薬ブレクスピプラゾールの併用療法が患者の認知機能を改善する可能性を発見
統合失調症においては、社会復帰の大きな障壁となる認知機能障害に対する効果的な治療法の確立が期待されています。名城大学大学院薬学研究科の亀井 浩行教授(神経精神薬理学/臨床薬学)、同研究科博士課程3年の清水 侑真大学院生らのグループは、非定型抗精神病薬のブレクスピプラゾール(Brexpiprazole、以下、BRX)の併用療法が統合失調症患者の認知機能を改善する可能性があることを示しました。
本研究成果は、2025年 11 月 18日にElsevier B.V.社が出版する国際学術誌「Heliyon」に掲載されました。
【本件のポイント】
・BRXの追加投与が16週間にわたって統合失調症患者の注意力および情報処理速度を改善した。
・統合失調症患者の精神症状は、16週間において有意な変化が認められず、認知機能の程度と有意な相関性を認めなかった。
・併用療法として追加されたBRXは、精神症状の改善に付随しない直接的な認知機能障害を改善する効果を有することが示唆された。
【研究の背景】
統合失調症は、陽性症状や陰性症状に加えて認知機能障害を認め、認知機能障害は日常生活能力と社会機能を予測する重要因子として考えられています。また、統合失調症の治療は、抗精神病薬を用いる薬物療法が主ですが、社会復帰の大きな障壁となる認知機能障害に対して、効果的な治療法は未だ確立していないのが現状です。非定型抗精神病薬であるBRXは、非臨床試験および臨床試験において、単剤療法による注意力やワーキングメモリ(注1)の改善を期待できることが報告されていますが、日常診療で実施される併用療法による認知機能への効果について検討した研究は十分に行われていません。
【研究内容】
桶狭間病院藤田こころケアセンターにおいて、BRXによる併用療法が開始され、18歳以上65歳未満の同意が得られた外来通院中の統合失調症患者19名を対象に、認知機能と精神症状を評価しました。認知機能の評価として神経心理学的検査(注2)、精神症状の重症度評価として陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)を用いて、BRXによる併用療法の開始前と開始4、8、16週後のデータを電子カルテより収集しました。
その結果、BRXの併用療法は神経心理学的検査のTrail Making Test(TMT)-A(注3)所要時間により評価された処理速度の有意な改善を認めました(表1)。一方、PANSS合計スコアは16週間において有意な変化が認められず、いずれの神経心理学的検査のスコアとも有意な相関関係を認めませんでした。したがって、併用療法として追加されたBRXは、精神症状の改善に付随するような二次的な認知機能の改善ではなく、直接的な認知機能の改善効果を有することが示唆されました。

【今後の展開】
本研究では、神経心理学的検査への負担を理由に3名の脱落者を認めたことが限界として挙げられました。我々は、これまで抗ヒスタミン薬を服用する患者の集中力や注意力などの低下を検出する方法として、精神運動機能試験の臨床応用を目指して研究を進めてきました。今後は、精神運動機能試験をタブレット端末用にソフトウェア化し、1) 短時間で評価可能で、2) 患者の負担が少なく、3) 日常診療への導入が容易なタブレット端末版の精神運動機能試験を用いた認知機能評価法の開発を行います(図1)。

図1.認知機能評価法の開発
【著者のコメント】
統合失調症の認知機能障害に対する治療法は未だ確立していないのが現状であり、BRXの併用療法が認知機能の改善効果を示したことは今後の精神科医療の発展に大きく貢献する可能性があります。また、本研究の成果において、認知機能評価に関する課題点が明らかとなり、我々がこれまで研究を進めてきた精神運動機能試験を新規の認知機能評価法として、その妥当性および信頼性を検証し、これにより精神科医療に貢献していく所存です。(亀井 浩行 教授)
精神科医療においては、統合失調症の陽性症状・陰性症状を中心に治療を進めていくことが主であると思われますが、統合失調症の最終的な治療ゴールは患者の就労などの社会的リカバリーにあることを念頭に置く必要があります。本研究では、BRXが患者の社会的リカバリーにつながる認知機能の改善効果を示し、この研究成果は精神科薬剤師が実臨床の中でBRXを積極的に提案できるエビデンスの1つとして考えられます。今後も、精神科医療をより良い方向へ導くためのパイオニアとして、精神科医療の質向上と精神科薬剤師の職能向上・拡大を目指した先駆的な研究を進めていく所存です。(清水侑真 大学院生)
【研究助成金】
本研究はJSPS科研費 JP23K06243の助成を受けたものです。
【用語の解説】
注1:ワーキングメモリ:短時間で得た情報を保持し、かつそれを操作する能力のこと。
注2:神経心理学的検査:高次脳機能障害を定量的に評価する検査方法のこと。
注3:Trail Making Test(TMT)-A:視覚的探索、処理速度、および注意力を評価するための神経心理学的検査のこと。
【掲載論文】
雑誌名:Heliyon
タイトル: Improving effects of additional administration of brexpiprazole to antipsychotics on cognitive function in patients with schizophrenia - A pilot study
著者名:Yuma Shimizu, Ippei Takeuchi, Manako Hanya, Kiyoshi Fujita, Hiroyuki Kamei*
(*責任著者)
掲載日時:2025年11月18日
DOI: 10.1016/j.heliyon.2025.e44179