プレスリリース
【名城大学】次世代の化粧品・食品素材の開発へ! 天然由来の無色カロテノイドの紫外線防御と美容効果を確認
名城大学大学院総合学術研究科(筆頭著者:博士前期課程 西村友希、研究責任者:本田真己准教授)とハリマ化成株式会社(研究責任者:澤田和美研究員、中村健人チームリーダー)からなる研究グループは、天然に存在する無色カロテノイドの「フィトエン(Phytoene)」注1)および「フィトフルエン(Phytofluene)」注2)が、高い紫外線遮蔽能に加え、優れた抗酸化作用(一重項酸素消去活性 注3))や美容関連機能(チロシナーゼ阻害活性 注4)、エラスターゼ阻害活性 注5))を有することを明らかにしました。さらに、本研究では、これらの機能性が異性体 注6)の種類によって異なることを確認するとともに、光照射によって異性化する特徴的な性質を持つことを解明しました。これにより、化粧品・食品素材として活用するうえで、光に対する安定性や異性体組成を考慮した設計が重要であることが示されました。
フィトエンおよびフィトフルエンは無色であるため、製品外観への影響を抑えつつ機能を付与できる新たな天然由来素材として、化粧品・食品分野への応用が期待されます。
本研究成果は、2026年5月17日にElsevier社が出版する国際学術誌「Food Research International」に掲載されました。

【本件のポイント】
・フィトエンおよびフィトフルエンの高純度異性体を単離し、構造解析に成功した。
・フィトエン異性体は高いUV-B遮蔽能を示し、とくにトランス型で高い値を示した(図1)。
・フィトフルエン異性体は高いUV-A遮蔽能を示し、とくにトランス型で高い値を示した(図1)。
・両成分はいずれの異性体も高い抗酸化作用(一重項酸素消去活性)を示し、トランス型でより高い傾向が確認された(図1)。
・フィトエン異性体はチロシナーゼ阻害活性およびエラスターゼ阻害活性を示し、美容関連機能を有することが確認された(図1)。
・両成分は光照射により特徴的な異性化挙動を示した。
・両成分は高い機能性と無色性を兼ね備えており、化粧品・食品分野で利用しやすい天然由来素材として期待される。
【背景】
フィトエンおよびフィトフルエンは、トマトやニンジンなどに含まれる天然のカロテノイドで、リコピンやβ-カロテンが生合成される過程で生じる中間体です。一般的なカロテノイドとは異なり無色であることから、製品の色調に影響しにくい機能性素材として注目されています。
これらの成分は分子内に複数の二重結合を有するため、天然では複数の異性体として存在します。カロテノイドでは、異性体の違いによって物性や機能性が変化することが知られていますが、フィトエンおよびフィトフルエンは天然中の含有量が少なく、高純度品の精製も難しいため、異性体ごとの紫外線遮蔽能や抗酸化作用、美容関連機能を詳細に調べた研究は限られていました。
そこで本研究では、フィトエンおよびフィトフルエンの高純度異性体を単離し、紫外線遮蔽能、抗酸化作用、美容関連機能、さらに熱・光照射による異性化特性を体系的に評価しました。
【研究内容】
1)フィトエンおよびフィトフルエン異性体の精製と構造解析
本研究では、トマトなど由来のフィトエンおよびフィトフルエンを対象に、順相クロマトグラフィー 注7)による分離・精製を行いました。その結果、フィトエンについては2種類の異性体を、フィトフルエンについても2種類の異性体を、それぞれ高純度で精製することに成功しました。さらに、精製したこれらの成分について核磁気共鳴(NMR)注8)により構造解析を行ったところ、フィトエンはトランス型および15-シス型、フィトフルエンはトランス型および15,9′-ジシス型であることを明らかにしました(図2)。これにより、フィトエンおよびフィトフルエンの物性や機能性を、異性体ごとに正確に評価するための基盤を構築しました。
なお、これらのフィトエンおよびフィトフルエン異性体のNMR分析は、世界的なカロテノイド研究の権威として知られ、これまで200種類以上の新規カロテノイドの同定実績を有する一般財団法人生産開発科学研究所の眞岡孝至博士により実施されました。

2)光異性化特性の解明
精製したフィトエンおよびフィトフルエンの各異性体に紫外線および白色LED光を照射し、照射前後の異性体組成の変化を評価しました。その結果、いずれの成分も光照射により異性化反応が進行し、異性体組成が大きく変化することを明らかにしました(図3、4)。一般に、リコピンやアスタキサンチンなど多くのカロテノイドでは、光照射によってシス型からトランス型への異性化が進み、最終的にトランス型が優勢になる傾向が知られています(Murakami et al., 2018; Zhang et al., 2023)。一方、本研究では、フィトエンおよびフィトフルエンはこれらとは異なり、光照射によってトランス型からシス型への異性化が進行し、シス型が優勢となる特徴的な挙動を示すことを明らかにしました。この結果から、フィトエンおよびフィトフルエンを機能性素材として活用する際には、光による異性体組成の変化を考慮することが重要であることが示されました。


3)熱異性化特性の解明
精製したフィトエンおよびフィトフルエンの各異性体を暗所30℃で21日間保管し、保管前後の異性体組成の変化を評価しました。その結果、フィトエンでは異性化はほとんど認められず、フィトフルエンでもわずかな異性化にとどまることが明らかになりました(図5)。一般に、カロテノイドは熱や長期保管によって異性化しやすく、異性体組成の変化による機能性や品質への影響が課題となる場合があります。一方、本研究で対象としたフィトエンおよびフィトフルエンは、比較的穏やかな保管条件下では高い安定性を示しました。この結果から、フィトエンおよびフィトフルエンは、光照射では特徴的な異性化を示す一方で、いずれの異性体も熱に対しては比較的安定であり、実用化において取り扱いやすい素材となる可能性が示されました。
4)紫外線吸収能の評価
精製したフィトエンおよびフィトフルエンの各異性体について、紫外線遮蔽能を評価しました。その結果、フィトエン異性体はUV-B領域 注9)に対して高い遮蔽能を示し、フィトフルエン異性体はUV-A領域 注10)に対して高い遮蔽能を示しました(図1)。これは、フィトエンおよびフィトフルエンの光吸収帯が、それぞれUV-B領域およびUV-A領域とよく重なるためです。さらに、トランス型は対応するシス型異性体よりもモル吸光係数が高く、より高い紫外線遮蔽能を示しました。具体的には、トランス型フィトエンのUV-B遮蔽能はリコピンの約1.5〜2倍、トランス型フィトフルエンのUV-A遮蔽能はリコピンの約5倍に達しました。これらの成分は無色であるため、製品の色調に影響を与えにくいという特長があります。この点で、フィトエンおよびフィトフルエンは、化粧品・食品分野で利用しやすい天然由来の紫外線遮蔽素材として展開が期待されます。

5)抗酸化作用および美容関連機能の評価
抗酸化作用として一重項酸素消去活性を、美容関連機能としてチロシナーゼ阻害活性およびエラスターゼ阻害活性を評価しました。その結果、フィトエンおよびフィトフルエンはいずれの異性体も高い一重項酸素消去活性を示しました(図1)。とくに、トランス型は対応するシス型異性体よりも高い活性を示し、優れた抗酸化素材としての可能性が示されました。また、フィトエン異性体はチロシナーゼ阻害活性およびエラスターゼ阻害活性を示しました(図1)。なかでもフィトエン異性体は高いエラスターゼ阻害活性を示し、フィトエンが紫外線遮蔽能や抗酸化作用に加えて、美容関連機能も併せ持つことが明らかになりました。以上より、フィトエンおよびフィトフルエンは単なる紫外線遮蔽素材にとどまらず、抗酸化作用や美容関連機能を併せ持つ天然由来の機能性素材として、化粧品・食品分野への応用が期待されます。
【今後の予定】
今回得られた知見を活かして、化粧品原料としての実用可能性を追求し、安全性評価や量産体制の構築などの検証を進めていきます。
【補足事項】
補足1)
ハリマ化成株式会社からのプレスリリース
補足2)
本研究におけるフィトエンならびにフィトフルエンの異性体の構造解析は、一般財団法人生産開発科学研究所の眞岡孝至博士の協力のもと、核磁気共鳴(NMR)測定により実施した。
一般財団法人生産開発科学研究所:
補足3)本研究におけるチロシナーゼ阻害活性およびエラスターゼ阻害活性の評価は、地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)の瀬戸山央博士の協力のもと実施した。
地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC):
【研究助成】
本研究の一部は、科学研究費助成事業 基盤研究(C)(25K08968)および国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「官民による若手研究者発掘支援事業」からの支援により行われました。
【用語の解説】
注1)フィトエン(Phytoene)
トマトやニンジン、微細藻類などに含まれる天然のカロテノイドの一種。リコピンやβ-カロテンが生合成される過程で生成する中間体であり、可視光をほとんど吸収しないため無色カロテノイドと呼ばれる。
注2)フィトフルエン(Phytofluene)
フィトエンと同様に天然に存在する無色カロテノイドの一種。リコピンやβ-カロテンの生合成過程で生成する中間体であり、フィトエンよりも共役二重結合が多い。
注3)一重項酸素消去活性
紫外線などにより生じる反応性の高い酸素種「一重項酸素」を消去し、酸化ストレスを低減する能力。抗酸化作用の指標のひとつ。
注4)チロシナーゼ阻害活性
メラニン色素の生成に関与する酵素「チロシナーゼ」の働きを抑える作用。美容分野で注目される機能のひとつ。
注5)エラスターゼ阻害活性
皮膚の弾力維持に関わるタンパク質「エラスチン」を分解する酵素「エラスターゼ」の働きを抑える作用。皮膚のハリや弾力に関わる美容関連機能のひとつ。
注6)異性体
同じ分子式を持ちながら、分子内の原子や二重結合の配置が異なる化合物。本研究で対象としたカロテノイドでは、二重結合の配置の違いにより「トランス型」や「シス型」といった異性体が存在する。
注7)順相クロマトグラフィー
極性の高い固定相(シリカなど)に対し、低極性溶媒を移動相として用いて成分を分離するクロマトグラフィー法で、異性体などの分離に優れる。
注8)核磁気共鳴(NMR)測定
強磁場中で原子の共鳴信号を測定し、化合物の骨格構造や官能基配置などを解析する構造決定法
注9)UV-B領域
紫外線のうち、波長280–320 nmの領域。UV-Aより波長が短くエネルギーが高い。日焼けや皮膚への急性的な影響に関与する紫外線領域。
注10)UV-A領域
紫外線のうち、波長320–400 nmの領域。UV-Bより波長が長く、地表に届く紫外線の多くを占める。皮膚の深部に到達しやすく、長期的な光老化に関与するとされる紫外線領域。
【掲載論文】
雑誌名: Food Research International
タイトル: Comprehensive characterization of high-purity colorless carotenoid (phytoene and phytofluene) geometric isomers: Spectroscopic properties, isomerization behavior, antioxidant capacity, and biological activities
(高純度無色カロテノイド(フィトエンおよびフィトフルエン)幾何異性体の包括的特性評価:分光学的特性、異性化挙動、抗酸化能および生物活性)
著者名: Yuki Nishimura, Mitsuya Ito, Kazumi Sawada, Kako Matsumoto, Kento Nakamura, Ou Setoyama, Takashi Maoka, Masaki Honda
掲載日時: 2026年5月17日に電子版に掲載
DOI: 10.1016/j.foodres.2026.119474
【本件に関するお問い合わせ先】
・研究内容に関すること
名城大学大学院総合学術研究科/理工学部
准教授 本田 真己(ほんだ まさき)
TEL: 052-838-2284
E-mail: honda@meijo-u.ac.jp
ハリマ化成株式会社研究開発カンパニー
チームリーダー 中村 健人(なかむら けんと)
研究員 澤田 和美(さわだ かずみ)
TEL: 029-847-5080
E-mail: rd-biotech@harima.co.jp
・広報担当
名城大学渉外部広報課
Tel: 052-838-2006
Email: koho@ccml.meijo-u.ac.jp