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報道関係者各位
プレスリリース

2015.04.09 15:00
雪印メグミルク株式会社

雪印メグミルク株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:西尾 啓治)は、当社保有のプロバイオティクス乳酸菌「ガセリ菌SP株」の健康機能に関する新たな知見について、《日本農芸化学会2015年度大会》において発表いたしました。

ガセリ菌SP株による抗肥満作用のイメージ図
ガセリ菌SP株による抗肥満作用のイメージ図

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当社保有の乳酸菌「ガセリ菌SP株」には内臓脂肪低減効果があることが、ヒト試験により確認されています。一方、過剰な脂質吸収と内臓脂肪組織の炎症が内臓脂肪蓄積の要因となることも分かっています。
今回、「ガセリ菌SP株」の内臓脂肪低減のメカニズムを調べたところ、「脂質に働きかけて脂肪酸への分解および吸収を抑制すること」、および「腸管バリア機能を保護し、炎症物質の流入を抑制すること」の二つの作用によって、脂肪蓄積と内臓脂肪組織の炎症を抑制することが分かりました。
※添付画像「ガセリ菌SP株による抗肥満作用のイメージ図」参照
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◆研究発表概要
1.演題名  Lactobacillus gasseri SBT2055はin vitroにおいて脂質エマルジョン粒子径の増大作用を介して膵リパーゼ反応を抑制する
発表者 ○小川哲弘、河野通生、酒井史彦、門岡幸男  ※○は演者
発表日 3月27日(金)

2.演題名  Lactobacillus gasseri SBT2055は高脂肪食摂取時の脂肪組織の炎症および腸管透過性の増大を抑制する
発表者 ○河野通生、三好雅也、小川哲弘、浮辺健、酒井史彦、門岡幸男  ※○は演者
発表日  3月27日(金)

3.演題名  Caco-2細胞を用いたin vitro腸管モデルにおけるLactobacillus gasseri SBT2055の菌体成分による腸管バリア保護作用
発表者  ○三好雅也、河野通生、酒井史彦、門岡幸男  ※○は演者
発表日  3月27日(金)


◆学会概要
日本農芸化学会2015年度大会
会期 平成27年3月26日(木)~29日(日)
会場 岡山大学 津島キャンパス(岡山県岡山市)


◆研究発表内容の要約
1.Lactobacillus gasseri SBT2055はin vitroにおいて脂質エマルジョン粒子径の増大作用を介して膵リパーゼ反応を抑制する

これまでの研究により、当社保有の乳酸菌Lactobacillus gasseri SBT2055株(ガセリ菌SP株)摂取による内臓脂肪蓄積の抑制メカニズムの一つとして、ガセリ菌SP株による脂質吸収抑制作用の関与が分かっています。そこで本研究では、ガセリ菌SP株による脂質吸収抑制のメカニズムを調べました。
摂取した食事脂質は、腸管で脂質エマルジョン※1となった後、膵リパーゼ※2の作用により脂肪酸に分解されます。試験管内で調製した脂質エマルジョンに膵リパーゼとガセリ菌SP株を混合し、脂肪酸量を測定した結果、ガセリ菌SP株の濃度が上がるに従い、脂肪酸の遊離をより強く抑制しました(図1)。さらに詳細に調べた結果、ガセリ菌SP株は、膵リパーゼに直接的には作用していないことが判明しました。そこで、脂質エマルジョンにガセリ菌SP株を添加した後に脂質エマルジョンの粒子径を測定した結果、脂質エマルジョンの粒子径が増大していることが分かりました(図2)。脂質エマルジョンの粒子径が大きくなると粒子の比表面積※3は小さくなり、リパーゼ反応が進みにくくなることが知られていることから、ガセリ菌SP株は脂質エマルジョンの粒子径を増大させることで膵リパーゼ反応を抑制し、その結果として脂質の吸収を抑制することが分かりました。

※1 脂質エマルジョン:水と油が乳化されることで混ざり合い、油滴が水に分散している状態。
※2 膵リパーゼ:脂質を分解する酵素の一つ。食物中の中性脂質は、膵リパーゼによって脂肪酸とグリセロールに分解されることで腸管から吸収できるようになる。
※3 比表面積:ある物体について単位質量あたりの表面積または単位体積あたりの表面積のこと。


2. Lactobacillus gasseri SBT2055は高脂肪食摂取時の脂肪組織の炎症および腸管透過性の増大を抑制する

ガセリ菌SP株は、内臓脂肪の蓄積を抑制するとともに、脂肪組織の炎症を抑制することが明らかとなっています。一方で、高脂肪食摂取によって腸管バリア機能が破綻し、腸内細菌に由来する炎症物質(LPS※1)が血中に流入することで脂肪組織の炎症が起こり、これが内臓脂肪の蓄積やメタボリックシンドロームの原因となっていることが分かっています。そこで、ガセリ菌SP株のこれらの作用に腸管バリア機能が関与しているかどうかを調べました。
マウスに通常食、高脂肪食、高脂肪食にガセリ菌SP株を添加した飼料をそれぞれ21週間摂取させました。その結果、高脂肪食による体重と内臓脂肪量の増加が、ガセリ菌SP株摂取により有意に抑制されました。さらに、脂肪組織において、炎症の指標となるM1マクロファージ※2(図3:左)および肥満時の脂肪組織内へのM1マクロファージの集積を促進するCD8陽性細胞※3が、ガセリ菌SP株摂取により有意に減少しました。これらの結果より、ガセリ菌SP株摂取により脂肪組織の炎症が抑制されていることが示唆されました。
また、マウスに蛍光物質を経口投与し、腸管から血液中への移行量を測定した結果、高脂肪食摂取マウスでは移行量は増大し、腸管バリアの透過性が増大していましたが、ガセリ菌SP株摂取マウスでは透過性増大は抑制されていました。
さらに、血中へのLPS流入の指標となるLPS特異的抗体量を測定した結果、高脂肪食マウスではLPS特異抗体量が増加していましたが、ガセリ菌SP株摂取マウスでは増加は有意に抑制されていました(図3:右)。
以上の結果から、ガセリ菌SP株は高脂肪食摂取時の腸管バリア機能の破綻を抑制することで、内臓脂肪組織における炎症および脂肪蓄積を抑制することが示されました。

※1 LPS:炎症を引き起こす細胞壁成分。通常は腸管バリアによって体内への流入が抑えられているが、肥満時には腸管バリア機能が破綻し、体内への流入が増加する。
※2 マクロファージ:動物の組織内に分布するアメーバー状の免疫細胞。生体内に侵入した細菌などの異物を捕らえて細胞内で消化するとともに、それらの異物に抵抗するための免疫情報をリンパ球に伝える役割を担っている。肥満時にはM1マクロファージが脂肪組織に集積し、炎症状態を悪化させることが知られている。
※3 CD8陽性細胞:肥満時の脂肪組織で増加する免疫細胞の1つ。M1マクロファージの脂肪組織への集積を誘導することが知られている。


3.Caco-2細胞を用いたin vitro腸管モデルにおけるLactobacillus gasseri SBT2055の菌体成分による腸管バリア保護作用

ガセリ菌SP株による腸管バリア機能の保護作用のメカニズムを明らかにするために、腸管機能の検証モデルであるヒト大腸ガン由来細胞「Caco-2細胞」を用いて検証を行いました。その結果、ガセリ菌SP株は炎症性サイトカイン※1の添加によるCaco-2細胞の経上皮電気抵抗値※2の減少および蛍光物質の透過性の上昇をそれぞれ抑制し、腸管バリア機能を保護する作用が示されました(図4)。また、この保護作用はガセリ菌SP株の可溶性成分※3に認められました。
以上の結果より、ガセリ菌SP株の可溶性成分が腸管上皮細胞に直接的に作用して腸管バリア機能の保護作用を発揮することが示唆されました。

※1 炎症性サイトカイン:免疫細胞がお互いに情報伝達を行うためのタンパク質の総称をサイトカインという。その中でも炎症を促進する働きをもつサイトカインは、炎症性サイトカインと呼ばれ、腸管バリア機能の破綻を促進する。
※2 経上皮電気抵抗値:腸管上皮細胞の電気抵抗値であり、腸管バリア機能の評価に用いられる。値が高いほど腸管バリア機能が強いことを表す。
※3 可溶性成分:水に溶解する成分のこと。乳酸菌の菌体を破砕し、遠心分離により不溶部分を除くと可溶性成分が残る。

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