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報道関係者各位
プレスリリース

2012.07.02 15:00
カゴメ株式会社

 カゴメ株式会社総合研究所(栃木県那須塩原市)は、鈴鹿医療科学大学薬学部(三重県鈴鹿市)佐藤 英介教授との共同研究で、動物試験において運動前または中間でのトマトジュースの摂取が、運動後の疲労の度合いの指標(疲労バイオマーカー)の増加を抑制することを明らかにしました。運動前または中間でのトマトジュース摂取によって疲労軽減効果が期待されます。
 なお、本研究内容は2012年度日本農芸化学会(3月22日~26日、京都女子大学)において発表致しました。

表1.試験群、図1.試験スケジュール
表1.試験群、図1.試験スケジュール

■共同研究者 鈴鹿医療科学大学 佐藤 英介教授のコメント
 今回の試験によって、運動前または中間でのトマトジュースの摂取により、運動後の血中疲労バイオマーカーの増加が抑えられることが明らかとなりました。この結果より、運動の前や合間にトマトジュースを飲むことで運動疲労の軽減が期待できます。今後はトマトジュース中の有効成分の特定を行ってまいります。


■研究の背景
 健康長寿のためには、適切な食生活と適度な運動が重要です。しかし過剰な運動は酸化ストレスや疲労による障害を招きます。トマトには抗酸化物質であるリコピンや各種ビタミン、ミネラル、有機酸など多くの栄養成分が含まれており、酸化ストレスや疲労による障害の軽減が期待できます。
 当社ではこれまでにヒトにおいて、中程度の運動時にトマトジュースを摂取することで、運動中の乳酸の代謝が改善され、疲労感の軽減が期待できることを示してきました(※1)。
(※1)2005年7月29日リリース『トマトジュース飲用による運動疲労軽減作用を示唆』 http://www.kagome.co.jp/research/summary/050729/index.html

 各種疲労においては、生体内での炎症や疲労の伝達に関与する物質であるサイトカインやホルモンの増加との関連が知られています。これらの物質は、運動など肉体的な疲労の他、眼に強制的に光を当てるなどの精神的な疲労においても顕著に増加することが知られており、疲労バイオマーカーとされています。
 本研究では、トマトジュースの摂取が運動疲労に与える影響をより詳細に検討するため、マウスを用いた試験により、トマトジュースおよびその上清の摂取が疲労バイオマーカーに与える影響と効果的な摂取タイミングについて検討しました。


■研究概要
≪目的≫
 本研究では、トマトジュースの単回摂取が運動後の疲労に与える影響ならびに疲労軽減のために効果的な摂取タイミングを明らかにすることを目的とし、運動前、運動中間、運動後のいずれかのタイミングでマウスにトマトジュースまたはその上清を摂取させ、運動後の疲労バイオマーカーの濃度を測定しました。

≪内容≫
 マウスを表1の3群に分け、ベルトコンベア状の走行装置(トレッドミル)で合計1時間の走行運動をさせ、運動6時間後の血中のサイトカイン、ホルモンを測定しました。試験飲料は図1に示すように、(1)運動前(2)運動中間(3)運動後のいずれかのタイミングで投与しました。

表1.試験群、図1.試験スケジュール
http://www.atpress.ne.jp/releases/27838/1_1.jpg

図2.トマトジュース及びその上清の運動前(左)、運動中間(中央)、運動後(右)の投与が運動後の血中TGF-β濃度に与える影響
(Means±SD, n=5 mice, *p<0.05)
http://www.atpress.ne.jp/releases/27838/2_2.jpg

 疲労バイオマーカーの一つであるサイトカインTGF-βの測定結果を示します(図2)。運動負荷後に、血中TGF-β濃度は顕著に増加しますが、トマトジュース、トマトジュース上清の運動前または運動中間での投与により、その増加が抑制されました。運動後の投与では、運動負荷後の血中TGF-β濃度はコントロール群と差がありませんでした。この結果より、トマトジュースの運動前又は中間での投与により運動後の疲労が軽減されること、また、この作用はトマトジュースの上清のみによっても見られることが示唆されました。

≪まとめ≫
 これまでヒト試験において、トマトジュースの摂取により運動時のエネルギー代謝が改善され、疲労感が軽減することを明らかにしてきました。本研究では、マウスを用いた試験により、トマトジュースおよびその上清が運動後の疲労バイオマーカーの増加に与える影響と、効果的な摂取タイミングを検討しました。その結果、トマトジュースを運動前または運動中間のタイミングで摂取することで、運動後の疲労バイオマーカーが軽減されることが明らかとなりました。さらに、この効果はトマトジュース上清のみによっても見られたことから、アミノ酸やクエン酸などのトマト中の水溶性成分が有効成分であることが示唆されました。ヒト試験で見られたトマトジュースによる疲労軽減効果にも、これらの成分が関与していると考えられます。
 本研究の結果より、運動前や運動の合間にトマトジュースやトマトを含む製品を摂取することで、運動時の疲労を軽減することが期待できます。


■用語の説明
乳酸:
運動時、糖の利用が高まる過程で発生する物質です。乳酸が過度に蓄積すると組織が酸性になり、筋疲労などの原因になるといわれていますが、乳酸はエネルギー源としても利用されるため、乳酸の代謝を高め、効率よく利用することが重要であると考えられています。

サイトカイン:
免疫系の細胞から分泌されるタンパク質で、特定の細胞に情報伝達をするものをいいます。多くの種類がありますが、免疫、炎症に関係したものが多くなっています。炎症に関連するサイトカインには、脳に作用して疲労や疲労感の原因となるものがいくつか知られています。

TGF-β:
サイトカインの一つで、疲労との関連が示唆されています。慢性疲労症候群の方では血中のTGF-βが上昇することが知られています。また動物実験では、マウスの脳にTGF-βを投与することでマウスの行動量が低下することが確認されています。


【資料】
■学会発表の要旨(日本農芸化学会)
トマトによる運動疲労軽減効果について
Title:The effect of tomatoes on reduction of the fatigue induced by exercise
向田 恵、吉田 和敬、佐藤 英介(※2)、稲熊 隆博
カゴメ株式会社総合研究所、(※2)鈴鹿医療科学大学薬学部

【目的】
 トマトには抗酸化物質であるリコピンや各種ビタミン、ミネラル、有機酸など多くの栄養成分が含まれている。我々はヒトにおいて、運動の際にトマトジュースを摂取することで運動時のパフォーマンスの向上や疲労感の軽減が期待できることを示してきた。運動時の疲労感の感知には、各種のサイトカインやホルモンの分泌が関与しているといわれている。そこで本研究では、これらのサイトカインやホルモンを運動疲労の指標とし、トマトジュースおよびトマト上清の摂取が運動疲労に与える影響を実験動物にて検討した。また、運動前、運動中間、運動後と異なるタイミングで投与を行い、最適な摂取タイミングを検討した。

【方法】
 動物は9週齢ICRマウスを用いた。被験食品はトマトジュースと、トマトジュースを遠心分離して得られる上清を用いた。マウスにトレッドミルで25 m/minの速度で1時間走行運動させ、(1)運動1時間前(2)運動中間(3)運動直後のいずれかのタイミングで被験食品を投与した。疲労指標として運動後10分間の行動量を解析すると共に、運動6時間後の血中コルチゾール、TGF-β、IL-10をELISA法により測定した。

【結果】
 トマトジュース又はトマト上清を(1)運動1時間前または(2)運動中間に投与することにより、運動による行動量の減少と血中コルチゾール、TGF-β、IL-10濃度の上昇が有意に抑えられた。しかし(3)運動直後の投与においては、トマトジュースとトマト上清のいずれの投与によっても行動量の減少および血中コルチゾール、TGF-β、IL-10濃度の上昇は抑えられなかった。以上の結果より、運動前または運動中間にトマトジュースを摂取することで運動時の疲労が軽減されること、またその作用は上清中に含まれる水溶性成分のみによっても見られることが示唆された。

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