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報道関係者各位
プレスリリース

2017.11.28 11:00
芝浦工業大学

芝浦工業大学(東京都港区/学長 村上雅人)応用化学科の田嶋稔樹准教授は、安全ながら有機溶媒に難溶なフッ化カリウムに対して、安価な固体酸を有機溶媒中に添加することでフッ化水素にほぼ100%の効率で定量的に変換する、新手法(特願2016-257443)を開発しました。さらに溶液中のフッ化水素は、安全なフッ素化剤として広範なフッ素化反応に適応可能なアミン-nHF錯体へ、容易に変換できます。

医薬品の約20%、農薬の約30%にフッ素化合物が使用されていますが、天然にはほとんど存在せず、これを生成するには毒性や腐食性、さらには爆発性を有するフッ化水素やフッ素ガスを取り扱うために特別な設備が必要であり高コストでした。一方で、今回の生成手法は、特別な設備を必要とせず小規模なフローリアクター(流通式反応器)で連続的に生産ができるため、安全かつ低コスト化が見込めます。

この技術は、身近なところではガンの早期発見のためのPET(陽電子放射断層撮影装置)検査へ適用でき、迅速かつ安価にPET検査薬を合成できることから、今後普及することでガンの早期発見、早期治療が期待されます。



■ポイント

(1) 安全・安価なフッ化カリウムから、定量的にフッ化水素を生成できる

(2) ガンの早期発見ができるPET検査で必要な、半減期が短いフッ素の同位体を含む検査薬の合成に適用できる

(3) 種々のアミン-nHFが容易に作れるため、反応性の評価ができるといった、学術的な価値が生まれた


新技術の処理概要


(1) 固体酸のスルホン酸(-SO3H)とフッ化カリウム(KF)が反応し、有機溶媒中にフッ化水素(HF)が発生する

(2) ろ過することで容易にフッ化水素以外を取り除ける(HFは溶液中で安定)

(3) アミン-3HF錯体は単離可能



■背景

従来、有機フッ素化合物は天然の蛍石に濃硫酸を加えフッ化水素を生成、またはそこから電気分解でフッ素ガスにして貯蔵し合成していました。しかし、フッ化水素やフッ素ガスは毒性や腐食性、さらには爆発性もあり、高度なノウハウや特別な設備が必要となりコストがかかっていました。そこで、フッ化水素を安全、安価なフッ化カリウムにして、そこから有機フッ素化合物を合成する手法が模索されていましたが、フッ化カリウムは有機溶媒へ非常に溶けにくく、なかなか上手くいかない課題がありました。



■今回の成果

水の浄化など多目的に使われ安価な固体酸(溶液中の陽イオンを交換する樹脂)を活用することで、カチオン(陽イオン)交換反応に基づきフッ化カリウムを有機溶媒中でフッ化水素に戻せる、新たな生成技術を確立しました。

有機溶媒中へ、ビーズ状に加工された固体酸を加えると、固体酸が持つスルホン酸がフッ化カリウムと反応し、フッ化水素が発生します。この手法は、従来の1万倍以上フッ化カリウムが溶けやすくなります。なお、固体酸は簡単に濾過でき、濃硫酸を加えることで繰り返し利用できます。

加えて、有機溶媒中のフッ化水素は溶媒和により安定な状態を保て、特別な設備がなくても安全に取り扱う事ができます。さらに、フッ化水素をアミン-nHF錯体へ容易に変換でき、有機化合物のフッ素化に利用できる安全なフッ素化剤を合成できるようになりました。



■今後の展開

フローリアクターによる量産体制の確立を目指し、協力先企業を模索し産学連携を進めていきます。 加えて、アミン-nHF錯体によって未知の有機フッ素化合物を合成、比較評価し、世界初となる有用な有機フッ素化合物を生み出します。



※添付ファイルに補足資料あり

https://www.atpress.ne.jp/releases/143938/att_143938_1.pdf



【補足資料について】

PET(陽電子放射断層撮影装置)検査で有効な理由

ガンを早期発見する有効な手段として、PET(陽電子放射断層撮影装置)検査があります。これは、ガン細胞が通常細胞の数倍グルコースを取り込む性質を利用し、ガンマ線を放つフッ素の同位体を含ませたグルコースを体内に取り込み、計測することでガン細胞の位置や発生を特定する技術です。フッ素の同位体の半減期は約110分と早く、あっという間に検査できなくなってしまうため、従来はサイクロトロン(円形加速器)でフッ化カリウムの同位体を作った後、迅速に処理できるものの非常に高価なクリプタンドを使用しフッ素の同位体を取り出していました。

今回の生成技術では、安価な固体酸を用いることでフッ素の同位体を必要な分だけ、すばやく定量的に生成できます。そのため、迅速かつ安価にPET検査薬を合成できることから、今後普及することでガンの早期発見、早期治療が期待されます。

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