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2010年02月05日
明治国際医療大学

世界初 明治国際医療大学の研究グループ、放医研との共同研究で
脳障害の反応「神経膠症」のイメージングに成功
~脳梗塞治療薬や神経再生医療の開発に~

明治国際医療大学: http://www.meiji-u.ac.jp/
関連ページ: http://www.meiji-u.ac.jp/news/?a=DispData&id=323

生体で撮影された脳のMRI・脳の顕微鏡画像
生体で撮影された脳のMRI・脳の顕微鏡画像
明治国際医療大学(※1)の河合 裕子助教、田中 忠蔵教授らの研究グループは、独立行政法人放射線医学総合研究所(理事長:米倉 義晴、以下、放医研)・分子イメージング研究センター(※2)(青木 伊知男チームリーダー)および米国国立衛生研究所・国立神経疾患脳梗塞研究所(Afonso C Silvaユニット長)らと共同で、脳梗塞で起きる神経膠症(しんけいこうしょう、グリオーシス)(※3)が梗塞の周辺部位で増大する様子を生体内で画像化することに、世界で初めて成功しました。この技術は、より効果的な脳梗塞の治療薬や神経再生を促す新しい医療技術の開発に役立つと考えられます。

脳梗塞など、脳に強い傷害が起きたときには、グリア(※5)と呼ばれる細胞群が、傷害された場所で大きく増える現象、神経膠症(グリオーシス)が起きることが知られています。中でもアストログリア(※6)という細胞が異常に増殖する現象は、神経の回復を妨げ、神経再生医療の際には移植された細胞の生着を邪魔すると考えられてきました。

しかし、最近このアストログリアが傷害部位での炎症を食い止めるために「防波堤」を作り、障害を軽くする働きがあることも分かってきました。
つまり、脳の神経に強い傷害が起きた時、このグリオーシスがどのように形成され、どの程度制御できるかを評価することが、治療薬や再生医療技術の開発に重要な意味を持つことになります。

これまで、神経膠症(グリオーシス)の発生を確認するには、死後に脳を摘出し、薄い切片を作成して顕微鏡で観察することしか方法がありませんでした。今回の研究では、マンガンイオンを利用した造影剤を使って、生きたまま脳のMRI(磁気共鳴画像)を撮影することで、脳梗塞の実験モデルで、傷害部位を取り囲むように発生した神経膠症(グリオーシス)を、白い信号上昇として検出することに成功しました(図)。

この研究は、機能性造影剤の技術と高磁場MRI(磁気共鳴画像)を用いることで、脳梗塞後に発生した神経膠症(グリオーシス)を画像化した世界で初となる研究成果です。撮影には、現在医療現場で広く使用されているMRIを用いるので、CT撮影などに使われる放射線の照射は不要です。
今後、本研究によって開発した技術は、アストログリアの増殖を制御する治療技術の開発に繋がります。また、新しい原理による脳梗塞治療薬の開発や、iPSやES細胞の研究で注目される神経幹細胞を移植することで、神経の再生を促す技術の開発など、幅広い医療・医薬品開発分野への貢献が期待できます。

本大学大学院では、平成18年より、放医研との間で連携大学院の協定を締結し、相互の研究交流と本大学院生が放医研において研究に従事できる制度を進めており、この研究は、明治国際医療大学・医療情報学ユニットの河合助教、梅田准教授、同大学・脳神経外科学ユニットの田中教授、樋口教授らの他、放医研・分子イメージング研究センターの青木チームリーダー、カーショー技術員、樋口チームリーダー、ならびに米国国立衛生研究所(NIH)・国立神経疾患脳梗塞研究所のSilvaユニット長らの研究グループによる組織横断的かつ国際的な共同研究の成果です。

この成果は、脳・神経科学において有名な米国の専門雑誌『NeuroImage』の2月15日号(49巻4号3122-3131頁)に掲載され、またオンライン版も公開されています。


1.背景
脳梗塞(一般には脳卒中とも言われる)は、日本人の死亡要因で10.3%(第3位)を占め、2007年時点での脳血管疾患は年間6万992人と言われるほど社会的に重大な影響を持つ病気です。最近では、脳梗塞の治療法として血栓溶解療法など効果を持つ薬剤が登場しましたが、発症直後にしか利用できないことに加え、脳内出血が起きる危険性があるなどの理由から、多くの症例に適用されているとは言えません。脳梗塞は、早期に治療が開始できなければ、その障害を軽減するための効果的な治療法はないのが現状です。将来的には、失われた神経細胞を移植治療などにより「再生」させるという積極的な治療が期待されていますが、まだ解決すべき問題点が多く残ります。

その一つとして挙げられるのが、神経膠症(グリオーシス)の発生です。脳梗塞に限らず、脳や脊髄に大きな傷害を受けると、グリアと呼ばれる細胞が傷害部位に集まったり、傷害部位で増殖したりする現象が起きます。アストログリアは、星状膠細胞とも呼ばれ、正常な状態では神経の保持や、血液から脳に取り込む物質の交換に関与する細胞です。脳に障害が起きると、このアストログリアが過剰に増殖して、場合によっては神経の回復を妨げ、再生医療を行う際に、移植した細胞の発育を邪魔する存在とされてきました。しかし、一方では傷害時に起こる炎症が脳全体に広がるのを抑えるために、「防波堤」のようなバリヤーを形作り、脳を守っているという研究も登場しています。つまり、神経膠症(グリオーシス)は、良い面と悪い面を併せ持つ諸刃の剣であり、必要なときに炎症を抑え、必要なときに神経再生を邪魔しないように「制御」することが脳梗塞の治療に重要だと考えられます。これまでの技術では、この神経膠症(グリオーシス)を生きたまま観察することはできなかったので、対策を立てることも、治療薬の効果を確認することも困難でした。


2.研究手法と成果
研究グループは、脳梗塞で生じた神経膠症(グリオーシス)を可視化するため、MRI(磁気共鳴画像)の造影剤の一つであるマンガン造影剤に注目しました。
マンガン造影剤は、活発な細胞に多く取り込まれ、また細胞の密度が高い場所で、高いMRI信号を出すという特徴があります。そこで麻酔下のラットを対象に実験的な脳梗塞を作成し、この脳梗塞モデルのラットに対してマンガン造影剤を使用しました。
約3週間の間に見られる脳の変化を高磁場MRI(※7)を使って画像化しました。すると、梗塞の発症から10日目以降に、神経の傷害部位を取り囲むような白い信号(信号上昇)が見られることを発見しました(図)。組織染色と比較することで、この信号上昇が見られた部位が神経膠症(グリオーシス)の起こっている場所であることを確定しました。


<図の解説>マンガン造影剤によるグリオーシスのMRI(マンガン増感MRI)
脳梗塞が起きた場所を取り囲むように環状に高い信号がある。組織染色と比較して、主にアストログリアによる神経膠症(グリオーシス)であることが判明。また、炎症の反応としてミクログリアの集積も観察された。これを食い止めるかのように、アストログリアによる神経膠症(グリオーシス)が防波堤を形成している。高磁場MRIでは、脳梗塞の傷害部位を100ミクロンの精度で画像化できる。
(図は、下方URLをご覧ください。)


3.今後の展開
今後、本研究の成果である「生きたまま、グリオーシスを観察できる技術」は、脳梗塞によって生じる細胞レベル・分子レベルでのメカニズムの解明、脳梗塞の治療薬の開発や改良、神経再生医療を生体に応用する際の基礎研究に大いに役に立つと考えられます。
この技術は、現時点では、直接人体や患者に応用することは出来ません。しかし、本研究で使用された機能性造影剤と同じ成分が、経口造影剤として消化管造影などに医療現場で使用されている事からも、今後、新しい薬剤送達技術や造影剤合成技術によって、より安全性の高い手法が開発される可能性があります。
本研究は“生体内で起こる様々な生命現象を外部から分子・細胞レベルで捉えて画像化する”分子イメージング技術の一種です。明治国際医療大学では、今後も医療の発展に貢献するため、病態や発症メカニズムの解明に取り組んでいきます。


<用語等解説>
(※ 1) 明治国際医療大学
明治国際医療大学(めいじこくさいいりょうだいがく、英称:Meiji University of Integrative Medicine)は、京都府南丹市に所在し、母体は学校法人明治東洋医学院。姉妹校として明治東洋医学院専門学校(大阪府吹田市)がある。
昭和53年に本邦初の鍼灸高等教育機関として開学した「明治鍼灸短期大学」を前身とし、昭和58年に「明治鍼灸大学」へと昇格。平成6年には、日本唯一の大学院鍼灸学研究科(博士後期課程)を設置するなど、我が国における鍼灸医学の教育・研究を牽引する他、附属病院、附属鍼灸センターなど7施設が併設され、統合医療の発展を目的とした臨床研究や基礎研究が行われている。
また、平成16年4月に保健医療学部柔道整復学科、平成18年4月に看護学部看護学科を開設し、東洋医学の特色を活かした総合医療大学をめざし、2008年4月、現校名に改称した。
(1)法人設立 : 1966年(昭和41年)10月
(2)理事長  : 谷口 和久
(3)大学開学 : 1983年(昭和58年)4月
(4)学長   : 中川 雅夫
(5)教職員数 : 288名(2009年5月1日現在 附属病院を含む)

明治国際医療大  http://www.meiji-u.ac.jp/
関連ページ    http://www.meiji-u.ac.jp/news/?a=DispData&id=323


(※2) 独立行政法人放射線医学総合研究所・分子イメージング研究センター
平成17年度に放医研に創立された分子イメージング研究を行っている研究センター。腫瘍や精神疾患に関する基礎研究や臨床研究のほか、分子プローブの開発や放射薬剤製造技術開発、PET開発やMRIの計測技術開発など、分子イメージングの基礎研究から疾患診断の臨床研究まで幅広い研究を行う世界屈指の分子イメージング研究拠点。文部科学省が推進する「分子イメージング研究プログラム」の「PET疾患診断研究拠点」として選定を受けている。

(※3) 神経膠症(グリオーシス)
外傷や虚血、感染などの侵襲によって生じるグリア細胞の反応である。グリア細胞の肥大や細胞増殖、グリア線維の増加が見られる。グリア性瘢痕(ぐりあせいはんこん)に至ることが多い。

(※4) 高磁場MRI
より高い磁場ほど強い信号が検出できるが、安定した画像を得るためには高度な技術力が必要となるため、通常の医療では3テスラ以下のMRIが使用される(1テスラは10,000ガウス)。本研究では、4.7テスラMRIが使用され、100ミクロン程度の分解能で生体の断層画像を得ることができる。

(※5) グリア
ニューロンと共に、神経組織の二大構成要素である。グリア細胞はニューロンの数の10倍もあり、神経系の体積の約半分を占めると言われている。ニューロンの発達と生存・代謝の支援や、シナプス伝達などに積極的に関わっている。

(※6) アストログリア
グリア細胞の一種で、多くの突起を持つことから、星状膠細胞とも呼ばれる。神経線維の支持細胞としての役割を果たす一方で、脳内に異物を取り込まないようにするためのフィルター(血液脳関門)の構成にも関わっているとされる。
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ジャンル 医療
カテゴリ 調査・報告
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