世界最先端の老化研究からわかった、腸内細菌の大事な役割 新コラム『PoA(老化スピード)は変えられる!?』を 8月7日にwebサイトで公開
「大腸劣化」対策委員会では、「大腸」の機能が衰えることで、全身の健康リスクが高まっている状態を示す「大腸劣化」の認知を広げ、毎日の生活のなかで対策に取り組んでいただくための活動を行っています。
昨今の研究において、老化のスピード(PoA:ペース・オブ・エイジング)は人によって差があることが分かってきており、専門家の間で注目を集めています。2025年6月に京都府京丹後市で開催された「第一回世界長寿サミット」には、世界中から多くの研究者や企業が集まり、老化や長寿についての最新情報が発表されました。
日本だけではなく世界中で高齢化が進んでいることもあり、「老化」への注目度は高まっています。当委員会では、世界長寿サミットの責任者の一人を務めた京都府立医科大学大学院医学研究科教授の内藤 裕二先生に監修いただいたコラム『PoA(老化スピード)は変えられる!?』を当委員会webサイト内にて公開いたしました。( https://daicho-rekka.jp/risk/08/ )
■加齢=老化ではない!老化スピードは人によって差がある
近年、老化の研究が世界中で進んでいます。抗加齢医学の分野では、「老化は一つの病気であり、治療できるものである」と提唱する専門家も現れ、マウスの試験においては治療による若返りにも成功しています。
老化の度合いは実際の年齢で測れるものではなく、加齢と老化は異なります。加齢は時間の経過とともに年齢を重ねる“暦年齢(実年齢)”の変化で、1年に1歳ずつ誰にでも平等に訪れます。一方、老化は年月の経過とともに起こる身体や脳の機能低下で、“生物学的年齢”の変化です。老化するスピード“PoA(ペース・オブ・エイジング)”は、人それぞれに違います。
イラスト1
■“スピード老化型”は1年間に2歳以上も歳をとる?!
年齢が同じでも、若く見える人・老けて見える人がいるのは、老化スピードに個人差があるためです。生物学的年齢が実年齢よりも進んでいることを“スピード老化型”、その逆を“スロー老化型”という呼び方ができるかと思います。
ニュージーランドのダニーデン地方で生まれた同年代1,037人の健康状態を26歳から20年間にわたり追跡調査した有名な研究があります。その結果、老化スピードが最も早い人は1年に2.44歳、最も遅い人では0.4歳、生物学的年齢が進んで※いました。同じ1年でも、両者の老化度合いに2.04歳の開きがあったのです。1年間に2歳以上の差が生まれるとすれば、年月が経つほどその差は顕著になっていくでしょう。また驚くことに、顔の見た目と体の若さにも相関関係がありました。見た目が若い人の方が筋力や内臓、脳などデータ上の健康状態が良く、体の年齢も若いということも報告されています。
※心臓血管系、代謝系、免疫系など19のバイオマーカーを指標に、機能低下を追跡、定量化。
イラスト2
■“腸内細菌の乱れ”は老化因子の一つ
現在、老化を引き起こす原因となる因子は14項目あります。“腸内細菌の乱れ”はその一つで、2022年に新たに追加されました。腸内細菌のパターンを特定する技術の進歩と、長期観察研究による腸内環境と寿命の関連を示唆する報告の増加によるものです。腸内環境を良好に保つことの重要性は近年広く知られるようになりましたが、老化や寿命との関連までもが見えてきたということになります。
イラスト3
■腸内細菌叢を若く保つことが加齢性疾患の予防に!
最近の研究によって、腸内細菌叢を若く保つことが加齢に伴う疾患の予防などに有用であることがわかりました。
一般的に健常者の腸内細菌バランスは加齢とともに変化します。日本人の場合、乳幼児で最も優勢なアクチノマイセトータ門(ビフィズス菌等)は成長とともに減少し、高齢になると有害な菌が増加する傾向があります。しかし、若い人と類似した成人型の腸内環境の高齢者も存在し、腸内細菌叢が成人型の人は高齢者型の人と比較すると、加齢性疾患と関連のある代謝産物が腸内に少ないことが確認できました。つまり、高齢でも腸内細菌叢のパターンが若ければ、加齢性疾患になりにくいと考えられます。こういった研究結果から、腸内環境を若返らせれば生物学的に若返る可能性が考えられます。
イラスト4
イラスト5
■腸年齢が進むと、全身の老化も進む!ビフィズス菌の減少が老化を加速させる要因に
近年、全身の老化と関連して、腸年齢“gAgeTM(ジーエイジ)”という考え方が提唱されています。腸は全身の健康の要といわれ、腸年齢が進むと全身の老化が進むと考えられています。多くの研究から、老化スピードが速い人は腸内細菌の多様性が低く、老化スピードが遅い人は多様性が高いという違いがあることがわかっています。つまり、若さを保っている人の腸内細菌は多様性が高いということです。腸年齢の進行を抑える要因は、腸内細菌の多様性と、有用な菌が生み出す短鎖脂肪酸などの代謝物です。逆に加速させる要因になるのが、善玉菌の代表ともいえるビフィズス菌の減少です。
イラスト6
イラスト7
■ビフィズス菌は腸内の“司令塔”
腸内のビフィズス菌数が腸年齢の若さ、そして老化スピードに関与するのは、ビフィズス菌が腸内細菌の活性化や多様性をもたらす役割を果たしているためと考えられます。ビフィズス菌は腸内で糖やオリゴ糖を優先的に食べて分解(代謝)し、酢酸※や乳酸を作ります。これらがさらに他の菌のエサになって菌を活性化し、酪酸※などの代謝物を作り、腸内細菌の多様性を高めるのです。また代謝物は悪玉菌の増殖を抑えたり、腸管のバリア機能を高めて、腸内環境を良好な状態に整えます。ビフィズス菌がまるで腸内の司令塔のように働くことで、腸年齢が若く保たれるといえるでしょう。
※酢酸も酪酸も全身の健康に寄与する短鎖脂肪酸の一種
イラスト8
■ビフィズス菌が多いと免疫力が高い ~京丹後の百寿者研究より
京都府立医科大学では、元気な長寿者が多く、100歳を超える人数が全国平均の3倍に上る京丹後地域※1で、2017年から長寿コホート研究※2を続けています。健康長寿の秘密をさぐるこの研究を通じて、ビフィズス菌と老化との関係が見えてきました。
イラスト9
細菌やウイルスなどの異物を排除して身体を守るリンパ球※3が多いことや、炎症反応などを反映するマーカー・NLR※4が低いことは、正常な免疫機能が維持されていることを示します。ビフィズス菌は腸の働きを良くし、免疫機能を調整するとされる腸内細菌ですが、京丹後地域の元気な長寿者への調査から、腸内のビフィズス菌量が多いほど正常な免疫機能が維持されていると考えられる結果が確認できました。さらに、ビフィズス菌量と認知症の進行度を照らし合わせたところ、ビフィズス菌が多い人ほど認知症になりにくい可能性が示されました。
※1 京都府北部の2市2町 ※2 ある共通の特性を持つ集団を、長期間観察する研究 ※3 白血球の成分の一つ。
※4 血液検査で測定される好中球数とリンパ球数の比率。炎症状態や感染症などの重症度や予後の評価に使われる。
イラスト10
イラスト11
【監修】
内藤 裕二先生
京都府立医科大学大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座教授
1983年京都府立医科大学卒業、2001年米国ルイジアナ州立大学医学部客員教授、09年京都府立医科大学(消化器内科学)准教授などを経て21年から現職。日本酸化ストレス学会副理事長、日本消化器免疫学会理事、日本抗加齢医学会理事、2025大阪・関西万博大阪パビリオンアドバイザー。専門は消化器病学、消化器内視鏡学、抗加齢学、腸内細菌叢。著書に「消化管(おなか)は泣いています」「健康の土台をつくる 腸内細菌の科学」など多数。京都府立医科大学における京丹後コホート研究の腸内細菌叢研究を担当。
■「大腸劣化」対策委員会について
全身の健康の要である大腸。「大腸劣化」対策委員会では、今、現代日本人の健康を脅かしている「大腸劣化」の認知を広げ、対策意識を高めていくことを目的として、大腸に関する医療・学術専門家の知識を集結し、大腸の働き・大腸劣化が起きる要因から、改善策までの幅広い情報を発信してまいります。 「大腸劣化」対策委員会 ホームページアドレス| https://daicho-rekka.jp/